メタルノイド・シンドローム

（一）魔女の箒星は突然に

SF小説家・国府田剛

　美優の目の前に現われた中年は、古い表現だが分厚い牛乳瓶の底の様なレンズの眼鏡をかけ、無精ひげを顎にたくわえたブ男だった。編集長のいうとおり冴えないヲタク中年のようだった。

　「わしが国府田剛だけど、あんたは？」

　「はじめまして、土屋美優といいます。今日は編集長の指示でやってきました。先日のオファーの件でお返事をいただきたいのですとのことです。
　それと契約書も書いてもらうようにということです」

　そういうと、美優はカバンの中から編集長から預かった書類入れを国府田にわたした。それにしても編集長もなんでアルバイトのわたしを使いにだしたんだろうか？

　「そうか、あんたのような可愛い若い娘さんが来てくれたんだから、サインしようじゃないか。
　わしは昔の作品の印税でギリギリの生活が出来る程度の稼ぎはあるんだけど、やはり魔女の箒星が襲来しているのだから、社会に警告を出さないといけないから。
　そう思ってあちらこちらに原稿を送ったんだけど、こうして来てくれたのはあんたのところだけだったんだ」

　「そうですか、やはり魔女の箒星の秘密を知っておられるような書き方をされていたのですか。てっきりわたしは空想の産物だと思ったんですけど」

　「なんだ、あんた原稿を読んでいるのかよ。なら話は早い、あの原稿に書かれているのは全てこれから起きることだよ、しかも人類は逃れられないぞ」