昭和二十年に封印された古い手帳に書かれていた物語

鬼夜叉と遍路

恐怖の佐平

　鬼夜叉が恐れられるのは、その身体能力の高さだ！　警官が護身用の刀を抜刀して戦っても太刀風を振り切ったついでに無刀取りして反対に切り倒すし、大勢で包囲してもその網を突破してしまう。後に、鬼夜叉と戦った者は全てこういった、まさに鬼が夜叉になったような奴だと。

　その鬼夜叉に興味本位で遍路についていっただけの佐平が勝つどころか、逃れる事は難しい事であった。では出来る事があるとすればなんだろうか？　恭順？　それとも逃げ出す？　しかし、佐平は中々決断できなかった。鬼夜叉に投降した場合どうなるか見当もつかなかったからだ。

　「す、すいません、道に迷いまして・・・帰ってもいいですか？」

　佐平は下腹部が濡れるのを感じていた。失禁だ！　それも相手にわかるぐらいに！

　「おめえ、しょんべん漏らしているんかよ？　野郎なのにみっともねえ奴やなあ」

　鬼夜叉はニヤニヤしていた。これは許してもらえるかと佐平は少し希望を持ったが、相手に隙などなかった。持っている鉈はいつでも振りかざすことが出来るようになっていた。逃げようとするとその鉈が佐平の首を狩ることになるのは想像できた。

　「す、すいません、ちょっと、なんていったらいいんですか？　そのお、あのう、恐いです・・・」

　佐平は運を天に任せる気分だった。もう恐怖も限界だった、あんな遍路についていくんだなかったと後悔していた。その時だ、高い所からあの遍路が現れた！