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(6)二人の逃避行
二人の逃避行
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二人の関係がばれた卒業式は不安ばかりのなんともいえない気分で迎えていた。本来は仲の良い両家がギグシャクしていたから。俺の家はずーと紛争地域にいったきり帰ってこない親父の代わりにお袋がきてくれたが、志桜里の方に関係を破綻させた祖父が付いていた。
卒業式が終わり卒業証書などを貰ったあと志桜里に悲しい想いをしたという。聞いた話によればバスケット部の有志が最後のミーティングと称したお別れ会があったという。その場には亡くなったチームメイトの遺影が置かれていたという。そのことについて志桜里は何ら語らなかったが、付き添いに行っていた(俺は外されていたから)妹の香央理によればこういっていたという。
「写真でしかもう会えないんだよね、そして私は永遠にもう・・・」
その後何を言おうとしたのか分からないが、想像はつくというものである。そのあと笑顔であったがずっと涙を流していたという。香央里がいうにはあんな姉を見たことはなかったという。厳しいリハビリに耐えたのになにかの心の糸が切れたようだ。
卒業式が終わった高校生にとって長い最後の春休みは様々であった。進路が決まっている俺のような連中はまさに極楽トンボといわれるのんきな気分だと言われてしまうものだ。しかし俺からすれば志桜里との事が頭から離れなかったので踏ん切りがつかないというか、なんともいえない状態だった。
そんな時、香央里から連絡があった。メールの設定などを変えられてしまって志桜里との連絡手段がなかったのでびっくりした。そこにはこうあった。最後の春だからついてきてほしいと。お袋には友人と卒業旅行に行くと嘘を言って、自宅から離れた小さな駅に行くと、そこにいたのは志桜里だった。
そのまま電車に乗って二人とも黙っていた。それなのに志桜里は俺の手をずっと握っていた、そして何かを言いたいようだったが話がまとまらないようで口に出来ないようだった。行き先は・・・香央里から渡された切符に書かれた地名で見当はついていた。
それから数時間、駅を乗り継いでいったが志桜里は一切何も語らなかった。でも握っている手は何かの決意がにじみ出ていた。そう、これは二人の逃避行だった。現実からの・・・
とある駅で降りた俺たちは駅前の小さな店で花束を買ってからタクシーに乗った。そこは二度と訪れるはずのない場所だった。もし何事も起きなかったら絶対行かないだろうし、あったとしても・・・忌諱したとしても仕方ない所だった。それを察したのか運転手も黙っていた、その場所は運転手もよく知るところだったようだ。
それから三十分、山間の比較的整備された国道をタクシーは快走した。通りすぎる山々は芽吹く季節を迎え色彩が蘇りつつあったが、俺たちの気分は対照的に仄暗いものへと落ちていく気がした。志桜里の手がガタガタ震えていたから・・・
「お客さん、もうすぐですよ。このカーブの先ですから・・・」
運転士も志桜里の表情から察していたようだ。だからこう言ってくれた。
「わたしも一緒に拝んでいいですか?」
卒業式が終わり卒業証書などを貰ったあと志桜里に悲しい想いをしたという。聞いた話によればバスケット部の有志が最後のミーティングと称したお別れ会があったという。その場には亡くなったチームメイトの遺影が置かれていたという。そのことについて志桜里は何ら語らなかったが、付き添いに行っていた(俺は外されていたから)妹の香央理によればこういっていたという。
「写真でしかもう会えないんだよね、そして私は永遠にもう・・・」
その後何を言おうとしたのか分からないが、想像はつくというものである。そのあと笑顔であったがずっと涙を流していたという。香央里がいうにはあんな姉を見たことはなかったという。厳しいリハビリに耐えたのになにかの心の糸が切れたようだ。
卒業式が終わった高校生にとって長い最後の春休みは様々であった。進路が決まっている俺のような連中はまさに極楽トンボといわれるのんきな気分だと言われてしまうものだ。しかし俺からすれば志桜里との事が頭から離れなかったので踏ん切りがつかないというか、なんともいえない状態だった。
そんな時、香央里から連絡があった。メールの設定などを変えられてしまって志桜里との連絡手段がなかったのでびっくりした。そこにはこうあった。最後の春だからついてきてほしいと。お袋には友人と卒業旅行に行くと嘘を言って、自宅から離れた小さな駅に行くと、そこにいたのは志桜里だった。
そのまま電車に乗って二人とも黙っていた。それなのに志桜里は俺の手をずっと握っていた、そして何かを言いたいようだったが話がまとまらないようで口に出来ないようだった。行き先は・・・香央里から渡された切符に書かれた地名で見当はついていた。
それから数時間、駅を乗り継いでいったが志桜里は一切何も語らなかった。でも握っている手は何かの決意がにじみ出ていた。そう、これは二人の逃避行だった。現実からの・・・
とある駅で降りた俺たちは駅前の小さな店で花束を買ってからタクシーに乗った。そこは二度と訪れるはずのない場所だった。もし何事も起きなかったら絶対行かないだろうし、あったとしても・・・忌諱したとしても仕方ない所だった。それを察したのか運転手も黙っていた、その場所は運転手もよく知るところだったようだ。
それから三十分、山間の比較的整備された国道をタクシーは快走した。通りすぎる山々は芽吹く季節を迎え色彩が蘇りつつあったが、俺たちの気分は対照的に仄暗いものへと落ちていく気がした。志桜里の手がガタガタ震えていたから・・・
「お客さん、もうすぐですよ。このカーブの先ですから・・・」
運転士も志桜里の表情から察していたようだ。だからこう言ってくれた。
「わたしも一緒に拝んでいいですか?」
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