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第二章・エリザベートと甲冑蟲

43.エリザベートを選んだ甲冑蟲(8)

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 評議会議長のチャリスは、そのとき年齢77歳で歴代の評議会議長のなかでも最長の在任期間30年も務めていた。本来はブルガリス公爵国は国家元首の公爵と実務を取り仕切る宰相が規定されているが、そのいずれも数十年不在なので、自動的にナンバーワンになっていた。そんな強大な権力を持っているというのに長年地位に入れるのは、本人が温和な性格で公正な人格で、国民の信頼が厚かったからだ。そのチャリスはアテルナをどうするかについて他の評議員と話し合っていた。

 「アテルナか・・・前の公爵殿下がおっしゃていたけど、彼女がもし再び動く日がやってくるとしたら、それはなんらかの兆しに違いないということだった。こんな事になるなら殿下に秘密とは何かを教えてもらえたらよかったのに!」

 チャリスの脳裏にはブルガリス最後の公爵の顔が浮かんでいた。彼はの跡を継ぐ者が誰一人いなかったため、この国の公爵位が空位になってしまった。それはともかく、目の前いや館の地下で動き出したアテルナをどうすればいいのかを決めなくてはいけなかった。

 「アテルナも甲冑蟲なんでしょ? なにも怖がらなくても」

 若い評議員たちはそういったが、チャリスや年配の評議員は先代の公爵が言っていたことを思い出して怖がっていた。アテルナが動く時がきたら何かの兆しと思えと! しかしその兆しが良いモノなのか悪いモノなのかの判断を仕切れなかった。アテルナなら後者の可能性もあるけど、もしそれならどうすればいいのか迷っていた。

 「法律には・・・アテルナの事について決まっているのは・・・あまりないなあ。せいぜい、保護しろとしかない」

 「議長! それならあなたがお決めください! この国について決める事が出来るのはあなただけですから!」
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