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(弐)処女妻の時代
夜行列車西へ
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その時、目ぼけて瞼を開けると漆黒の闇が見えていた。ここはどこなの、わたしは誰? と呆然と考えていた。鳳凰宮香織という女は半年前に死んだ。だからこの世に存在していない、ではどこにいるのだろう、あの世? それとも・・・なんて想像していた。鳳凰宮にいたはずの香織は墓所に葬られたはずなのに、その心と身体はまだこの世にある。黄泉の国から蘇ったわけでも、左法(邪法)によってあの世から逆走されたわけではない。現在生きている人間によって死んだことにされた。
そのため鳳凰宮の香織は存在してはならないものだ、一部の人たちにとって。だから、今の私は偽りの占部香織という存在しない女になるしかなかった。では、遍路の旅を終えたらどうなるのかは、私はまだ知りたいと思わなかった。終えた後に待っている運命とは一体・・・
瞳に映っていた漆黒は列車の車窓から見える風景だった。一体どれぐらい眠っていたのか分からないけど、外は闇に包まれ街灯すら見えないから人の営みなどほとんどない所を疾走しているようだ。また身体は規則正しい列車のリズムある振動を感じていた。
考えてみれば、座敷牢から脱出して丸一日すぎようとしていた。それまで興奮状態にあったからか眠気を感じなかったのに列車に乗って安心して眠りに落ちていたようだ。今乗っているのは帝都中央駅を出発した西へと向かう夜行列車だった。その日は冬の寒さが厳しく列車に乗客は疎らだった。私の隣には桔梗さんがいた。
「香織、お目覚め?」
「はい・・・お姉さん」
桔梗さんが私を呼び捨てにするのは、姉妹二人の旅と偽造するためだ。その時、車掌が検札にやって来た。
「切符を拝見します! まずは通路側の方から」
桔梗さんは持っていた二等急行券を二枚差し出した。行き先はこの夜行列車の終着駅で、予定では出発から半日後に五洲島に向かう連絡船に乗るはずだった、もちろん桔梗さんと二人で!
「それにしても、なかなか物騒でないですか、若い女二人旅は! 今の時期は観光じゃないでしょうに」
車掌は何か詮索しているかのような聞き方だった。たしかに怪しまれても仕方ないけど。
「実は・・・田舎から父が危篤という電報で急いで帰省している途中で」
桔梗さんはそういった。大抵の人ならそれ以上は詮索しないであろう言い方だ。だから車掌はそれは心配ですねといって去っていった。その間も夜行列車は西へと向かっていた。こんなに急いでいるのは、以蔵さんによれば私が鳳凰宮の座敷牢から脱出したのを人外たちに知られたからだ。人外たちの目的は私の身柄と私が持つ勾玉だ。その二つを手にすればあることが出来ると言われているので、どうしても手中にしたいわけだそうだ。では、何ができるのか? それは教えてもらえなかったが、ある札所まで行けばおのずとわかることだという。
「お姉さん、終着駅につくのは明日の朝8時半ですね。それからあとはどうするのですか?」
桔梗さんをお姉さんといったけど、本当の事を言えば自分の本当の姉だったらよかったのにと思っていた。鳳凰宮の家で唯一甘えられる存在だったから。もし許されるのならこのままずっと一緒に暮らしたかった。一度、結婚した身にとって、いくら処女のままといってももう他の家に嫁ぐことは無いと思っていた。それに存在しないはずの女が人並に暮らせるようになれるとは思えなかった。
「それは・・・駅前にいる赤いちゃんちゃんこを着た靴磨きに声をかけるのよ。そしたら後の手配はしてくれるそうよ。それに五洲島までいけば占部家の配下のものが時々助けてくれるように手配しているから。
それはそうと、少し寝ていてもいいわよ。終着駅からが勝負だから、いいわね」
そういうと、桔梗さんは私に優しく寄り添ってくれた。戦争で実家の家族を全員失い天涯孤独になった私にとって頼れるのは今では彼女だけだから。私は彼女に寄りかかる様に眠りに落ちていた。そのまま永遠にいたいと思ったのに・・・夜行列車はなおも西へ向かっていた。そのあと起きる事の前触れもなく・・・
そのため鳳凰宮の香織は存在してはならないものだ、一部の人たちにとって。だから、今の私は偽りの占部香織という存在しない女になるしかなかった。では、遍路の旅を終えたらどうなるのかは、私はまだ知りたいと思わなかった。終えた後に待っている運命とは一体・・・
瞳に映っていた漆黒は列車の車窓から見える風景だった。一体どれぐらい眠っていたのか分からないけど、外は闇に包まれ街灯すら見えないから人の営みなどほとんどない所を疾走しているようだ。また身体は規則正しい列車のリズムある振動を感じていた。
考えてみれば、座敷牢から脱出して丸一日すぎようとしていた。それまで興奮状態にあったからか眠気を感じなかったのに列車に乗って安心して眠りに落ちていたようだ。今乗っているのは帝都中央駅を出発した西へと向かう夜行列車だった。その日は冬の寒さが厳しく列車に乗客は疎らだった。私の隣には桔梗さんがいた。
「香織、お目覚め?」
「はい・・・お姉さん」
桔梗さんが私を呼び捨てにするのは、姉妹二人の旅と偽造するためだ。その時、車掌が検札にやって来た。
「切符を拝見します! まずは通路側の方から」
桔梗さんは持っていた二等急行券を二枚差し出した。行き先はこの夜行列車の終着駅で、予定では出発から半日後に五洲島に向かう連絡船に乗るはずだった、もちろん桔梗さんと二人で!
「それにしても、なかなか物騒でないですか、若い女二人旅は! 今の時期は観光じゃないでしょうに」
車掌は何か詮索しているかのような聞き方だった。たしかに怪しまれても仕方ないけど。
「実は・・・田舎から父が危篤という電報で急いで帰省している途中で」
桔梗さんはそういった。大抵の人ならそれ以上は詮索しないであろう言い方だ。だから車掌はそれは心配ですねといって去っていった。その間も夜行列車は西へと向かっていた。こんなに急いでいるのは、以蔵さんによれば私が鳳凰宮の座敷牢から脱出したのを人外たちに知られたからだ。人外たちの目的は私の身柄と私が持つ勾玉だ。その二つを手にすればあることが出来ると言われているので、どうしても手中にしたいわけだそうだ。では、何ができるのか? それは教えてもらえなかったが、ある札所まで行けばおのずとわかることだという。
「お姉さん、終着駅につくのは明日の朝8時半ですね。それからあとはどうするのですか?」
桔梗さんをお姉さんといったけど、本当の事を言えば自分の本当の姉だったらよかったのにと思っていた。鳳凰宮の家で唯一甘えられる存在だったから。もし許されるのならこのままずっと一緒に暮らしたかった。一度、結婚した身にとって、いくら処女のままといってももう他の家に嫁ぐことは無いと思っていた。それに存在しないはずの女が人並に暮らせるようになれるとは思えなかった。
「それは・・・駅前にいる赤いちゃんちゃんこを着た靴磨きに声をかけるのよ。そしたら後の手配はしてくれるそうよ。それに五洲島までいけば占部家の配下のものが時々助けてくれるように手配しているから。
それはそうと、少し寝ていてもいいわよ。終着駅からが勝負だから、いいわね」
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