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(参)四龍の勾玉

黒い影(2)

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 この国が戦争に負けてからというもの。戦場から戻ってきた復員兵は珍しい存在でなかった。この国を占領した同盟軍により軍隊が解散し失業状態であったので、どこに行っても会ってもおかしくなかった。しかし階段にいるそれは存在が浮いているように感じた。

 ”どうすればいい”


 ”様子みましょう向こうも下手な事はしないはずよ”

 桔梗の言葉で香織はそうすることにした。乗船した連絡船は船体が軋む音や調子の悪そうなエンジンの轟音であまりよく眠れそうでなかったが、香織はウトウトしていた。そして、これからどうなるだろうと不安な気持ちが渦巻いていた。そして、私の人生っていったいなんなのよ! そういう想いが渦巻いていた。その時、あの黒い影が近寄っていた。

 「ねえ、君はどこまで行くの?」

 その黒い影の声は中年の男のようだった。香織は恐ろしくって眠ったフリをすることにした。それは桔梗もおなじようであった。

 「チェ! まあいいか!」

 その黒い影はそう言い残して元いた階段へと戻った。そいつは二人を確かめたのは間違いなさそうだった。

 港を出港して何時間か経過したが、なぜか船はどこかに停泊してしまった。みんな着いたわけないのにとザワザワしていると船員がこんなことをいいだした。

 「近くの海域に浮遊機雷らしきものがあるそうです! 安全を確認するまで、日厚狭ひあさ島の入り江に停泊します」

 乗客には不平の声があふれ出したが、桔梗は物凄い形相になっていた。
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