(短編)甲冑娘セツナの憂鬱

ジャン・幸田

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(1)あの人に伝えたいのに

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 いつものように甲冑娘部隊の激しい活動が行われていた。甲冑娘とはアルタリス世界を構成する国家を守る一種の守護神で、生体装甲の中に若い娘を「内臓」として閉じ込める事で稼働するものだった。

 そのため、少しでも生体装甲に適合しそうだったら半ば強制的に連れてこられて試されるのであった。そんな一人がセツナだった。

 彼女は街道脇でお茶屋の娘として働いていたが、たまたま移動していた甲冑娘部隊から適性を見込まれてしまい、そのまま「お持ち帰り」された不運な娘だった。

 適性を確認され、甲冑娘に選ばれたセツナは正式に甲冑娘部隊へ徴兵されてしまった。そのまま他の甲冑娘の内臓(人間の娘)によって、「ヴァンジャリーナ」と呼ばれる紅色の生きた甲冑の内臓にされてしまったのだ。一度、内臓に選抜されると最低でも成人するまでは勤めないといけないのだった。

 そんな甲冑娘セツナをいま憂鬱にしているのが、そう恋だった! しかも「ヴァンジャリーナ」を管理する書記官のウマールを好きになったのだ! しかし、彼と会うときはいつも甲冑娘なので素顔を出すことが出来ないので憂鬱だった。

 そんな彼女が彼と素顔のままでそれとなく会う事が出来る日が来た。それは「ヴァンジャリーナ」が一年に一度の整備のために錬金術師の館で解体されるからだ。その時、邪魔になる「内臓」の娘は追い出されので、整備が終わるまでは束の間の自由というわけだ。

 セツナは一年ぶりに甲冑の中から出してもらえた。甲冑の中では裸の状態で身体に無数の管を差し込まれているので、こうやって外に出るのが嬉しかった。いつも生ぬるい中で変な感覚に苛まされることもないし、「ヴァンジャリーナ」の干渉を受ける事もないので、自由だと感じていた。

 しかし、この自由にも制限があった。自分が甲冑娘の内臓であることを、全ての男に話すことは許されないのだ。もし話した場合には死を賜ることになるという掟があった!

 錬金術師で借りた人間の若い娘の服を着たセツナはそーとウマールの様子を見に行った。実は彼とは相思相愛の仲だけど、それは「ヴァンジャリーナ」としてであり、人間の娘ではないのだ! それに掟があるのでウマールには甲冑娘と名乗ることができないのだ!

 セツナはウマールが休暇を過ごしている錬金術師の館の前にある湖のほとりを歩いていた。いつもは生きた甲冑娘の内臓になっているので自分の足で歩く感覚が気持ちよかった!

 こうして風に吹かれ光を感じるのが嬉しかったが、ウマールを直接自分の目で見れるという楽しみもあった。聞いた話ではウマールは湖の釣り人用の柱の上で釣りをしているということだった。その時、ウマールの姿を見つけた! セツナは駆け出していった、いつものようにハグしたいと! そう思ったのは、いつも作戦が成功したとき、ウマールと成功を分かち合っていたからだ。ここではセツナとしてハグしたかった!
 でも途中で掟の事を思い出した。いくらなんでも男に自分の正体を明かせないかと!

 そのため、ウマールには、ただ偶然にやってきた少女の振りをするしかなかった。するとウマールの方から話しかけてきた。

 「お嬢さんはどこから来たんですか?」

 「この近所の村です。私はアチュルといいます」

 このアチュルというのはセツナの妹の名前だった。セツナの名前を使った時のリスクを考えると出来なかったからだ。

 「そうなんだ、僕は錬金術師の館で泊まっているウマールというんだ」

 「あなたって甲冑娘部隊の人でしょ? 胸に勲章があるから」

 「そうだよ。そうだ君は知っているかな、ヴァンジャリーナって甲冑娘を。彼女の担当をしているんだ。結構相性がいいんだよ」

 相性がいいというウマールの言葉にセツナは嬉しかったが、名乗ることが出来なかった。

 「そうなんですか」

 「で、いつも一緒に行動しているんだけど今日はお休みなんだ。内臓の娘とデートしたいけど掟で出来ないのが残念!」

 セツナはその言葉に胸が熱くなったが、当然名乗ることは出来なかった。結局、セツナはその日、ウマールに想いを人間として伝える事ができなかった・・・
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