冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田

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エリーは探偵として推理する

32・身体は監獄のなかに(1)

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 人間という存在は身体という器の中に閉じ込められたものであるという表現がある。自分の五感で感じる事が出来るのが、身体で触れる事が出来る範囲だけであり、文明の利器によって遠く離れた事象を感じる事も知ることも出来るとはいえ、それらも聴覚や視覚などで感じられる範囲でしかない。

 そんな身体すら閉じ込められた存在が全身拘束刑の囚人であった。一見すると非人道的な刑罰であるが、元々は身体障碍者しょうがいしゃが健常な者と同様の生活を送れるように開発されたサイバノイド技術の応用であった。

 だが、新たな技術革新があると必ず行われるのが軍事技術への転用だった。最小限の身体改造によって鍛錬された兵士に生まれ変われるとして研究開発が行われた。それらの技術が成熟すると軍事的抑止力が形成され、結果として平和な状態になるとの楽天的な考えすらあった。しかし、それは大いなる過ちであった。世界各地の軍事独裁政権やテロリスト集団によって悪用されたことで、世界中が混乱した。

 麗華民主共和国による自爆的無差別攻撃の前後は、そのような改造された人間によるテロや戦闘が多発し、結果的に世界大戦と同様な混乱が広がった。それを収拾できたのも従来の人類ではなく、改造された人間の叡智であった。しかし、それは新たな脅威の始まりであった。世界各国がその脅威に対処するため、人体の改造にありとあらゆる制限をかけるようになった。改造しても正当な理由なく人類をはるかに凌ぐような能力を与えてはならないとされたのだ。

 そんな中、刑務所に代わる身体刑として導入されたのが、囚人を一般社会で働かせるために改造する全身拘束刑であった。その刑は監視システムを体内にインプラントして行動を管理し、労働者として働かすことで贖罪させようというものであった。また刑の軽重によって改造程度が大きく異なっていた。軽い刑なら日常行動の観察のためのインプラント挿入ですむが、重くなると身体の改造だけでなく、電脳化処理したあとで自我の書き換えを行うものまであった。従来の死刑相当の場合は完全な機械化と自我の喪失という人間の尊厳の抹殺処理が執行される。そのため、完全な機械奴隷と揶揄された。

 愛莉の場合は、柴田技師長に送られてきた執行作業指示書に基づいて全身拘束刑に処せられたが、その指示書に問題があった。司法長官や検察庁次官や最高裁判事の署名捺印があったが、従来の死刑囚なみの措置になっていた。いわば、愛莉は懲役10年のはずが死刑執行と同等の措置をされてしまったのであった。そのため愛莉はガイノイド・アイリに改造されてしまった。そのため自我を失ったアイリはそのまま壊れるまで機械として活動していかなければならないはずだった。それを救ったのが長崎淳司のクライアントであった。

 淳司によって自我を取り戻した愛莉はいまエリーの中にいた。姿はガイノイドのままだったが、その身体を自分で確かめる事が出来るようになった。今までの愛莉には感じる事が出来なかった事であった。
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