婚約していたことを忘れていたので破棄するなんて私にとっても都合良いですわ

ジャン・幸田

文字の大きさ
28 / 28

27 閑話(ハインツの婚約者ローザ目線)

しおりを挟む
 カリンとケネスが決闘していた日、ハインツは正式に婚約者となったローザと一緒で出国するところであった。その時、ローザは動揺していた。ハインツがファスマティア国王の親族と知ってしまったから。ハインツは王国貴族だったと説明していたが、細かい事は言っていなかったし、ローザも深く詮索しなかった。

 もし、詮索していたら・・・微妙な事になっただろうし、親同士が決めたものとはいえ婚約者がいたなんて。しかもジーゼル帝国でも名前が知られている女性剣闘士のカリンが相手だったなんて。


 王国で二人の扱いはそれほど酷いものでなかったが、ローザからすると周囲の人々が話す言葉を理解できないし、自分から意見を述べることが出来なかった。王宮から出た後は帝国の大使館職員がやってきたが、事実上軟禁状態だった。

 「王国政府から必要な書類を受け取ったので、これで正式に夫婦になれます。ただし、わかっていると思いますが、ハインツさんの出自については一生涯語ってはいけません。それはお子さんが生まれた場合も同様です。もし破った場合は・・・」

 記録抹消刑を受けたハインツは出生時からただの平民のハインツとされた。名字だけは仮のものとして全く関係ないものが書類に記載されていた。だから帝国に戻ればローザの婿養子と形になるのは確実だった。

 帝国では貴族の婚姻は許可が必要だし、もし相手が「平民」の場合、貴賤婚(身分差が大きい結婚)のため、結婚が許可されても場合によっては二人共平民扱いになるはずだった。しかし、特別な配慮があったようで。


 「それにしても、よかったですな。本国政府から特別にハインツさんと結婚しても貴族同士という扱いになるそうですよ。あとは、結婚登記所に書類を提出して結婚式を挙げてください」

 「はい・・・ありがとうございます」

 ローザの隣りにいたハインツは気まずそうな表情を浮かべていた。彼は帝国で熱心に勉強しているうちに、母国語だけでなく本当に婚約者がいたのを忘れていたから! それがいちばん大事なのにもかかわらず。二人は出国手続きを隔離に近い状態で受けたが。ハインツは帝国語で明瞭に語りだした。

 「ローザ、ごめん。自分の事を話さなくって・・・」

 その時、ローザはかあれに対しキリッとした表情をして詰め寄ってきた。それに対しハインツは殴られそうになって身構えるような表情を浮かべた。

 「さっきの役人さんが、いっていたでしょ。あなたはこの国にいたときの話をしてはいけないと。だから私もあなたのこの国で何をしていたかは知りたくもありませんし、聞きません! それよりも」

 そういってローザはハインツの唇を奪った。そのとき、部屋をノックする音がして入国管理官が入っていた。ハインツのパスポートを持っていた。それは帝国のものであった。

 「ハインツさんのパスポートです。わかっていることと思いますが、あなたがたは二人だけでなく孫の世代までこの国への入国が禁止されます。もし破った場合は厳しい懲罰が待っています。いいですね・・・」


 そういっていたが、後ろにハインツの母がいた。もう親子だと名乗ることが出来ない・・・

 「ローザさん、ハインツと一緒に幸せになってください。これは餞別です」

 そういって小さい布袋をわたしてきた。それはハインツが結婚するために貯めていた金貨だった。それを受け取るのを二人は拒否したが、半ば強引に受け取らされた。その後ハインツは二度と会うことはなかったので、永遠の別れになってしまった。

 「出入国ゲートを抜け、隣国に入った。強制送還になったので隣国の帝国大使館から派遣された役人が待っていた。そこで二人は「さあ、帝国におかえり。二人共!」

 「じゃあ、帰りましょう。わたしたちの国に」

 ローザはハインツの手をつなぐと、一緒に歩みだした。カリンさんには本当に悪いことをしたと謝罪したかったが、少し前にカリンから手紙を受け取っていた。

”あなたの謝罪はいらないわ。おかげで愛する人と結ばれるきっかけをもらったわ、感謝すしているわ。あなたも幸せになりなさい。ざまあな事にならなくてもいいのよ。”

 







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 その後のローザたちであるが、夫婦として添い遂げたという。ハインツは鉄道技師として大成し、様々な鉄道路線で名前を残したという。ただ、結婚前については最初から帝国生まれとされたが、本当の出自は知られることはなかった。


 ローザであるが、子宝にも恵まれ高名な鉄道技師の妻として幸せであったが、許せないことがあった。仕事に夢中なると妻も子も忘れることがよくあった! 長期出張に派遣されているときに、親子でハインツを訪ねても本気で顔を忘れていた。ちなみに結婚前の事は子どもによれば、本当に何もかも忘れていたそうだ。忘れるのは性分だったといえる。まさに自分で記録抹消病にかかったかのように。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

名無し生活
2021.08.19 名無し生活

ハインツは伯爵令息ではないですか?
最新話では公爵令息になっています💦

ハインツはどんな謝罪を述べるんでしょうか?気になります

2021.08.19 ジャン・幸田

間違えていました申し訳ございません。
ハインツですがまあどんな男か次のお楽しみということで。

解除

あなたにおすすめの小説

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

婚約破棄?構いませんが、当然慰謝料は貰えるんですよね?

水垣するめ
恋愛
伯爵令嬢のマリア・ウィンターは、七歳の時から伯爵家のデビット・ベイカーと婚約していた。 容姿端麗でいつも冷静なデビットを好きになったマリアは、デビットのために血の滲むような努力をした。 全てはデビットと釣り合う女性になれるように。 しかし、ある日突然デビットはマリアに対して婚約破棄をつきつけた。 しかも、実は一年前から付き合っていたというとんでもないことを告白してきた。 そんなデビットに恋も冷めたマリアは喜々として婚約破棄を受け入れる。 ですが、慰謝料は当然貰えるんですよね?

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

失踪していた姉が財産目当てで戻ってきました。それなら私は家を出ます

天宮有
恋愛
 水を聖水に変える魔法道具を、お父様は人々の為に作ろうとしていた。  それには水魔法に長けた私達姉妹の協力が必要なのに、無理だと考えた姉エイダは失踪してしまう。  私サフィラはお父様の夢が叶って欲しいと力になって、魔法道具は完成した。  それから数年後――お父様は亡くなり、私がウォルク家の領主に決まる。   家の繁栄を知ったエイダが婚約者を連れて戻り、家を乗っ取ろうとしていた。  お父様はこうなることを予想し、生前に手続きを済ませている。  私は全てを持ち出すことができて、家を出ることにしていた。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
 婚約者である王太子からの突然の断罪!  それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。  しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。  味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。 「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」  エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。  そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。 「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」  義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。