【完結】ワニ女として飼育されて・・・

ジャン・幸田

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一日目

プールで展示されて

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 わたしの身体は重たかった。わたしが、このような状況に陥る前のことを思い出そうとしたけど何も思い出せなかった。様々な光景が脳裏に浮かぶけど、それが何を意味するのかがわからないのだ。だから人間だったとわかってもどんな人間だったのかわからなかった。

 その脳裏に浮かんだ光景では、わたしの手は細く綺麗で華奢な体つきの髪が長い若い女のように思えた。ただ学生なのか、社会人なのか、美人なのか、不細工なのか、そういった事は全くわからなかった。

 それと、どうもワニのなかでわたしは裸でいるような感覚だった。しかも口や鼻、下腹部にチューブのようなものを差し込まれ、目には大きな何かが貼り付けられ、耳栓をされているようだった。なぜワニの中で裸になっているのだろうわたしは? 

 でも確認しようとしても首は固定されているし、肘や膝、腰は何かの器具に押し込まれて固定されているのだけはわかった。その時、ある言葉が浮かんだ。わたしは”着ぐるみ”のなかにいるのだと。

 しかし、それは確かめることが出来なかった。手も足もがっちりと固定されていて、前後にしか進むことは出来ない! そう思った瞬間、わたしの身体は水中にあった。プールに落ちてしまったのだ。どうにかしないといけないと思ったが、足いや後ろ足が水底についてわたしの身体は浮いたようだった。

 そのとき、またあの声が聞こえた。そのままの姿勢でいろと。わたしの目には水面からの光景が見えた。どうもワニとしての目は水面から少し浮いているようで、その先には多くの観客がいるのが確認できた。どうやらここは本当に動物園のようだった。

 観客の多くは子供連れの家族で、みんな笑顔だった。わたしを見て感激しているのだろうか? 哀れな女が閉じ込められた姿が受けているようだ! そのとき、なぜか耳元に動物園の飼育員と観客の声が聞こえてきた。

 「このイリエワニのメイですが、一週間ぶりの公開なんですよ。しばらく調子が悪かったんです。
 どうですか、ワニの水中の姿。当園自慢のこの展示室ではプールを横から見ることが出来るので、ワニが水中にいるときの様子が観察できます」

 「ワニって丸太のように水面に浮かんでいると思っていたのですが、こんな風に頭を水面に浮かべて後ろ足は水底についているのが本当なんですね」

 「ええ、野生では絶対見れない光景ですよ。ああやって獲物を待ち受けているのですよ。ほら、川を渡る水牛を襲ったりする場面をテレビで見たことございませんか?」

 そのとき、わたしの身体は「二足歩行」していた時のように「大の字」に浮かんでいるようだった。この状態が本当のわたしの身体の姿勢に近いはずだ! そう、わたしは人間なのだ!

 この時、わたしはある光景が脳裏に浮かんだ。大きなワニが頭を水面に浮かべて「大の字」で水中でダラーンとしているのところを。しかもわたしは人間の服を着て歓声をあげていた。

 このとき、その回想シーンは恐ろしい事だと気付いた。わたしは人間だったときには、プールの向こう側にいたんだ! わたしは人間だったときにここにワニを見に来た事あったんだ!

 わたしは恥ずかしくって仕方なかった。観客にはわたしのお腹が丸見えなんだと! しかし向こうにはただのワニにしか見えないだろうけど! そう思っているとあの声が聞こえてきた。お前、ワニらしく浮いていてよく出来ているぞ、そのままワニらしく浮いておくんだと。

 わたしは、その声に反論したかった。わたしは人間なんだぞ! なんでワニの中に閉じ込めているんだと! しかし、声にする事は出来ないし、ワニらしい行動以外のことは全く出来なかった。あとで判った事だけど、周囲の人間にもわたしの意志は伝わらないのだと。しゃべれないからだ!

 わたしは、それから長い時間水中にいた。この姿勢が人間だったと認識できて嬉しかったからだ。しかし、ここから出ることも出来ないし誰にも人間だと気付いて
くれるはずはなかった。それを思うと絶望感しかなかった。
 
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