現代徒然日誌

1.変わらない日常

入社してから通い続けている喫茶店を後にした私は社用車の待つ駐車場へと向かう。

すでに私よりも先に来ていた課長、米沢さんが待っていた。
「おはようございます。
 武田さん、自転車で来るみたいなので先に行って下さい、と連絡がありました。」
「分かった、自転車で来る理由、寝坊？」
「さぁ～、分からないですね。
ただ、昨日から体調悪そうでしたので。」

同僚の武田からは
『ごめん！寝坊したから自転車で行く』
とLineで連絡はもらったが、曖昧な答えでその場を取り繕う。
米沢さんも
（どうせ寝坊だろう）と思っているかもしれないが、深く追求するほどの事でもないと感じたのかそれ以上の質問もしてこなかった。

ラジオから流れる最近のスポーツ選手のエピソードを軽快にアナウンサーが語っている。
適当に聞き流しながらスマホを弄っていると上司の山里部長がやって来た。

「おはようございまーす。」
スマホから顔を上げ、間延びする挨拶で会釈するも特に反応することなく助手席に座る。

なるほど、機嫌がよろしくないのか、はたまた体調がよろしくないのか。
そんなどうでもいいことを考えている内に車は動き出していた。


スマホを見るのにも飽きて、目を瞑ってうつらうつらとしていると
「今日は巨人戦はないんですか？」
「元々ナイター組まれてないみたい、だから首位と最下位のゲームを実況するみたい。」
「だからか～。」

前の上席2人で野球話に花を咲かしている。
そんな上席2人の話をBGMにして薄く開けた右目で外を見ると、小学生のいないがらんとした学校の前を通過していた。
綺麗に咲き誇っていた桜の木も緑が美しく、セミが仕事をしていた。

あと5分もしたら会社に到着する。

何も変わらない、だけど２度とは繰り返さない日常が今日も始まる。