現代徒然日誌

3,依頼と意向と一理ある

勤怠締めは終わった。
営業さんに提出するネット事業の結果報告を作成せねば。

そんな矢先の事だった。

「ちょいと良いですか？」
「うーん？どうしましたか？」
私の席の前に同僚の武田さんが困った顔でやって来た。
「秋野さんから言われて、『蜂の巣が出てきたので呼んで欲しい』と」
「なるほど～、分かりました。
すぐ行きましょう。」
「では、失礼しました～」
申し訳なさそうな表情で事務所を後にした武田さんを確認してから
「あの野郎、何でも頼みやがって。
ブー一人でも蜂の巣位処理できるだろう？」
「そりゃそうでしょうけどねぇ～。
ただ、状況を知らないわけにもいかないのでね。
ちょっと行ってきますわ～。」
一連の流れを見て軽く呆れていた山里部長のお小言を受け流しつつ、
「じゃ、部長。
現場行ってきます～。」
そそくさと現場へと向かうのだった。


今年の夏は例年よりも暑いらしく、過ごしやすい事務所から出た瞬間の包み込まれるような暖かさ。
そして暑さへと変わる。

（後でブーさんにもちゃんと話しておかなくてはね）
依頼するのは構わない。
ただ、部長はどういうわけか同僚の武田さんには厳しい傾向がある。
とはいえ、初めから厳しかったわけでもない。
過去の積み重ねで今の評価に繋がっているわけなのだから。



蜂の巣はあっさりと見つかった。
素人が撤去出来るレベルでないことも分かった。
「ブーさん、あれは高いね。」
「高いね、でも頑張れ！」
こういうときだけ良い笑顔見せやがって。
「あとで対応考えておくわ。」
現場を確認し、また事務所に戻ることにした。



蜂の巣駆除の方法を考えつつ月次資料を作成して気がつけばもうお昼。

「部長、お昼行って来まーす。」
「あぁ、行ってらっしゃい。」
電卓から顔を上げず、ひたすら計算している上司。


食堂まで歩いて5分。
私の前を歩いていたブーさんにやっと追い付いた。
「おいブーさん。依頼するのは構わないが、事務所内では依頼内容まで話さなくて良いからね？」
「蜂の一件、あれは秋野さんに言われてたから。」
「うん、知っとるよ。
でも、『誰からの頼みか』ではなくて『貴方の頼み』というところで、うちの部長（マスター）が小言を言うねん。」
「うーん、まぁ気を付けるわ。」
不承不承というオーラ全開で了解してくれた。 
「それなら『部長！代わりに蜂を退治しといて下さい！』って投げちゃえば良いじゃない？」
「それが言えたら私、怒られますよ？」
いつの間にか追い付いていた先輩の発言を上手くスルーしつつ、
「でも先輩の言う通りなんですけどねぇ～」
と同意していた。

依頼する同僚の気持ちも分かるし他方では部長の意見もまた分かる。
先輩の意見にも一理ある。

内心ため息をつきつつも笑顔でやり過ごすことを決めた私だった。