Legendary Saga Chronicle

一樹

文字の大きさ
7 / 15

しおりを挟む
 昼食を摂ったあと、念のためにカガリにはフードを被せて宿を出た。
 その時には、すでに件の冒険者達はいなくなっていた。
 どうやら、昼食に立ち寄っただけのようだ。

 すぐにレジナは、情報屋に行き情報を集めた。
 それによると、すでに王族達のことはかなり話題になっているようだった。
 情報屋から出て、街道を歩きながらレジナは手に入れた情報を整理する。

 「うーん。まさかとは思ったけど」

 「なにかわかった?」

 「まぁ、いろいろとね
 王族と君の元クラスメイト達がどうして、こんな辺鄙なとこにいるのかってことなんだけど」

 「うん」

 「たぶん、あたし達と同じだと思う」

 「同じって、伝説の剣を探してるってことか?」

 レジナはうなづいた。
 
 「そう」

 ファルゼル王国の建国当初こそ、勇者王が神から与えられたとされるその剣は、鞘から引き抜くことが出来たら次代の王として認められるという装置になっていた。
 しかし、いつの時代からかその存在はぱったりと姿を消してしまう。
 なにしろ、五千年だ。
 魔王が魔族のいなくなった後の世界で起こった、戦乱のゴタゴタで行方不明になってしまったのだ。
 伝説によれば、使えるものがいなくなり元の主である勇者王の墓まで飛んでいって突き刺さっていると言われている。
 ただ、魔族は生き延びているとずっと言われていた。
 南にあるとされるデスレイン砂漠。
 そのどこかには、魔族達の国があるという言い伝えがあるのだ。
 ただ、デスレイン砂漠に行くには天上の世界に通じていると言われる険しい山々、フィストリア山脈を越えなければならない。
 しかし、歴史上誰もこの山を越えた者はいないとされている。
 挑戦する者はいるが、遭難して帰らぬ人となるからだ。
 二次被害のおそれもあるので捜索隊が派遣されることもないと聞いている。

 「ちゃんと管理しておけば良いのにね、ほんと」

 「でも、なんで今さら」

 そう仮にも王族がスポンサーなら、伝説の武器に頼らなくてもそこそこお金を出せばそれなりの物が用意できなくもないからだ。
 さすがに全員分とはいかないだろうが。
 その答えも、レジナはあたりがついていた。

 「たぶん、王位継承が関わってる」

 「次の王様を決めるため?」

 「ほら、あたし前に言ったでしょ。
 その剣を使える者が次の王様になるって話。
 で、ここ最近は魔王が復活しただの、再来しただのの噂に加えて伝説上とされてきた魔族の存在が確認されたり、各国で君みたいな異世界人が召喚されてきてる。
 まるで、伝説をなぞるみたいにね。
 ファルゼル王国は正統な王位継承権を持つのは王子が二人に王女が二人。
 基本は男が優先的らしいけど。
 ある種のお家騒動が起きてるんじゃないかと、あたしは見てる。
 勇者と一緒に旅をして、伝説の剣を手に入れて魔王を倒した者が次の王様だとか言えば、継承権が低くてもチャンスだと思って参加するはずって話も前もしたと思うんだけど」

 「そういうもんかなー」

 「現に、君は食堂で騒いでたのが王族だって断言したじゃん」

 「まぁ、そうなんだけどさ」

 「それに、出世や成り上がりに夢を見るのは男も女も同じだし」

 「でも、それじゃどうするの?」

 「なにが?」

 「このままじゃ先を越されるんじゃ」

 「たしかにね。
 たぶん、王家にしか伝わらない伝承なんかを参考にして動いてるはずだし。
 でもーー」

 レジナが言った時、背後から車が駆けてくるのがわかった。
 轢かれないように二人は端による。
 馬車か竜車かと思ったが違った。
 二人の横を通り過ぎたそれは、最近貴族達の間で広まりつつある、魔力で動く魔導自動車オートモービルと呼ばれる車だった。
 噂では、動かせる者はかなり高い給金で雇われているらしい。
 一般に出回るには、まだまだ時間がかかる乗り物である。

 「ふーん、いいご身分だ」

 そう言ったレジナをカガリは見た。
 彼女はいつの間にか色眼鏡ーーグラサンを掛けて遠ざかる自動車を凝視している。
 自動車がかなり小さくなったところで、グラサンを外す。
 そして、言った。

 「今の車、その王族達と君のクラスメイトが乗ってたよ」

 「車を持ってるのか」

 「それなりのお金はやっぱり出てるみたいだね」

 運転手もそうだが、魔導自動車そのものが物凄く高価なのである。
 そしてメンテナンス等の維持費を合わせると、レジナがカガリに買い与えた服と装備一式がもう二つほど用意出来るほどだ。
 今は、貴族達の間では所有していることが、一種のステータスになっているらしい。
 レジナはグラサンを消して、今度は宿で印をつけた地図を出現させる。

 「ここから一番近い墓がある場所に向かったかな」

 その声は、少し弾んでいた。
 先を越される心配はしていないようである。

 「は、早くしないと!」

 逆に、カガリは焦った声でそう言った。

 「たぶん大丈夫だよ」

 「え?」

 「そこ、一番有名なところだから。剣の引き抜き体験とかできるんだよ」

 「は、はい?」

 「有名な観光地なんだよ。実際剣が目立つ所に突き刺さってるみたいだけど。
 たぶん、そこのは偽物だと思うし」

 「そうなの?!」

 「経験上、こう言った伝説にあやかって村おこししてるとこのは、ほぼ百パー、偽物。
 1回銅貨五枚で挑戦出来るらしいね、見物だけなら銅貨一枚ね。
 そもそもさー、もし本物だったら魔法協会や錬金術士協会の連中が来てとっくの昔に研究のために回収してるはずだよ。
 大々的に村おこしの道具にされてる時点で、たぶん偽物」

 「で、でもさ、もし本物だったら」

 「その時はその時。いざとなったら君のクラスメイトパーティからぶん取れば良いんだし」

 発想が盗賊と大差ない気がする。

 「ぶんどるって、相手は勇者と王族だよ」

 「だから?」

 「絶対無理だよ」

 「無理じゃないよ。君の元クラスメイトも王族の子達も宝の持ち腐れだったし」

 「え?」

 「宿の食堂であの子達の装備を確認したけど、どれも一級品だった。
 もちろん、実践向きって意味でね。
 でもさー、武器を使わない喧嘩でアレはねー。
 多少はどっちも訓練を受けたみたいだし、その辺の盗賊やチンピラ相手だったら充分だと思うよ。
 ただねー、これからのこと考えるとたぶんすぐ死ぬと思うよ」

 「??
 ごめん、意味がわからないどういうこと?」

 「んー、そうだなぁ。
 よし、ちょうど良いし授業をしよう」

 そう言ったかと思うと、レジナは道を外れた。
 整備された街道から外れて、近くの林に入っていく。
 カガリはそれを追いかける。
 しばらく歩き、レジナは足を止めた。

 「ん、この辺がいいかな?」

 彼女が足を止めたのは、少し開けた場所だった。
 次にレジナは指を振り、短剣いやナイフを出現させる。
 黒塗りの刃は長く、柄は短めのアンバランスなナイフだった。
 今は鞘に収まっている。

 「はいこれ」

 そのナイフをレジナはカガリに渡してくる。
 カガリは素直に受け取る。

 「それを抜いて、あたしに切りかかってみて」

 「切りかかって、って、うぇ?!」

 「ほら」

 「いやいやいや!
 危ないよ!」

 「大丈夫だよ」

 「無理だよ!」

 「なら刃は出さなくて良いから。ちょっと攻撃してみて」

 「いやいやいや、これ絶対俺が返り討ちにあうやつじゃん!」

 「違うよ、授業だよ」

 「意味がわからない」

 「あのね、あたしも超人じゃないし完璧じゃないの。
 もしかしたら、あたしが怪我したりして動けなくなって、君だけで逃げたり戦ったりすることがあるかもしれないでしょ?」

 それはその通りだった。
 レジナと行動を共にして、もう一月近くが過ぎている。
 何度か盗賊に追い剥ぎにあったし(レジナが返り討ちにして身ぐるみを剥がした)、レジナの体験談によれば、遺跡に調査に来ていた冒険者やトレジャーハンターと遭遇しトラブルとなることも少なくないらしい。
 その話を聞いていたからこそ、彼女の授業の意味も義務も出来る。カガリは理解できる。

 「それは、でも」

 「あとは、君が多少動けた方があたしも助かるし。
 今後のことも考えての授業だよ」

 それはその通りなのだろう。
 レジナはカガリに自衛を覚えさせるつもりなのだろう。
 レジナは楽しそうだ。
 とても楽しそうに、彼女はカガリにナイフを差し出してくる。
 楽しそうなのに、気迫のようなものを感じる。
 ごくり、と唾を飲み込んでカガリはナイフに手を伸ばした。
 そのナイフは、レジナのコレクションの一つであり、とある殺人鬼が年端もいかない子供達を殺害し解体し、食べるために使ったとされている、いわく付きのものだった。
 そのことを彼が知るのは、授業の後である。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

処理中です...