Legendary Saga Chronicle

一樹

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 大丈夫。
 大丈夫だ。
 目を瞑って、鼻をつまんで一気に食す。
 それだけ、それだけのことだ。

 ごくり、と唾をのみこむ。
 緊張のためだ。
 未知に挑戦する故の緊張だ。
 手にした串を見る。
 カガリは、嫌な汗を背中に流しつつ、手にした串焼きをみる。
 こんがりといい感じに焼きあがった、バッタのような昆虫の串焼きだった。

 ちらり、とカガリはレジナとアーサーを見る。
 レジナは捕まえたヒキガエルのようなものを絞めて解体しているし、アーサーは昆虫の幼虫のようなものを網に乗せて焼いている。
 幼虫が踊りながら焼けていく。

 「ジンジャーがあって良かったよ、小麦粉も余分に買い置きしてたしカエルの手足の唐揚げなんて久しぶりだなぁ」

 なんてレジナが言って、どんどんカエルを調理していく。

 「久しぶりって」

 カガリの呟きは、レジナに聞こえていたらしい。
 フライパンで唐揚げを作りながら、返してくる。

 「あたしのお母さんとお父さんが、そういうサバイバルが好きな人達で、あたしが小さい時なんかあちこち連れて行ってもらって、よくこれが出てきたんだよね。
 カエルの唐揚げはお父さんの好物で、得意料理なんだ。
 お父さんはおばあちゃん、あたしからすると曾おばあちゃんに作り方をおそわったんだってさ」

 キャンプの間違いじゃないだろうか?
 そう思ったカガリだったが、深くは聞かなかった。

 「レジナの両親って、今は?」

 「ん?
 あー、空の上にいるよ」

 さらりと言われてしまって、カガリは聞いたことを後悔した。
 よくよく考えれば、レジナの歳で命をかけて好きなことをするということを許している時点で察するべきだったのだ。
 空の上にいる。
 つまりそういうことなのだろう。

 「どしたの?」

 レジナは気にしていないのか、急に黙ってしまったカガリを不思議そうに見ている。

 「なんでもない」

 「串焼き、全然食べてないね」

 「いや、これは」

 さすがに抵抗があると、素直に言えないものだ。

 「一つ食べると意外とイケるんだけどね~」

 言葉に迷ってるカガリから串焼きを奪うと、レジナはモグモグと食べてしまった。
 ただ、全ては食べずに残りはカガリに返す。

 「サバイバルの時はなんでも食べられた方が得だよ。
 生焼けじゃないからさ」

 「こっちも焼けたぞー!どんどん食えよ!」

 続いて、アーサーが焼けた幼虫の丸焼きを葉っぱを皿替わりに盛り付けて渡してきた。

 「あ、あたしこれも好きなんだよね~」

 レジナは嬉しそうに葉っぱの皿を受け取って、幼虫の丸焼きを一つ摘むと口の中に放り込んだ。

 「うんまー!魚油が欲しくなるなぁ」

 幼虫の丸焼きを堪能するレジナを横目に、アーサーがカガリへ説明してくる。

 「トロって知ってるか?
 とある魚の部位なんだけど、この幼虫、そのトロと似たような味がするんだよ。
 サバイバル時に食べたい虫ランキング一位」

 マジかよ。
 カガリの顔から表情が消えた。
 腹痛を起こすことは無い、と信じたい。

 「い、いただき、ます」

 ぎこち無く言って、カガリは串にかぶりついた。
 女の子が平気で食べているのに、自分が怖気付いてしまったのがなんとなく恥ずかしくなったのだ。
 
 エビ、のような食感だった。
 外はカリカリ中はプリプリ。
 味は、不味くはないが、美味くもない。
 出来ることなら、もう少し塩気が欲しかった。
 ただ、空腹だったのも事実で。
 串焼きはすぐに食べてしまった。
 続いて、幼虫の丸焼きを食べてみた。
 なるほど、これは。

 「醤油をつけて食べたい」

 たしかにトロに近い味だった。
 不覚にもわさび醤油が欲しくなってしまった。
 こちらは、意外にもカガリの口に合ったようだ。

 「よし、次は唐揚げだ!」

 そうして、次に出てきたのは、水掻きのついた唐揚げだった。
 食べてみたら、唐揚げだった。
 紛うことなき、唐揚げだった。

 「美味しい?」

 「美味しい」

 素直に感想を口にすると、魅力的な笑みを浮かべたレジナがカガリを見つめてくる。
 そして、

 「じゃあ、はいこれ」

 まだ生きて、ゲコゲコ言っているカエルを一匹ずいっと目の前に出される。

 「???」

 意味が理解出来なくて、カガリの顔に疑問符が浮かんだ。

 「次は君があたしに作るんだよ。
 ほら、あのナイフ出して出して!」

 「は?」

 「いや、まだまだ道のりは長いし、自分で出来るようになってもらわないと」

 言い分はわかる。
 おんぶにだっことはいかない。
 しかし、やはり抵抗がある。
 レジナとカガリが指名手配されたことが判明し、つまりは賞金稼ぎたちに襲われて数日が経過していた。
 この数日の間に、カガリはレジナとアーサーの二人からモンスターの捕まえ方、捕らえたモンスターや獣の血の抜き方に捌き方、罠の作り方等などを教わってきた。
 しかし、抵抗が大きくうまく出来なかった。
 罠の作り方はまだ良かった。
 しかし、いざ締める段階になると怖気付く。
 魚は別なのだが、特にカエルなどの元の世界で彼が口にしなかった物を締めて捌くことが、カガリには難しかった。

 昨日は、アーサーが沢でスッポンによく似た子供のモンスターを捕まえてきたのだが、その生き血を酒で薄め、ジュース等で割って飲む飲み方を伝授された。
 精力がつくのだという。
 しかし、生きたままのスッポンによく似たモンスターの首に包丁を入れることが出来ずに、ギャーギャー騒いでアーサーを大いに笑わせた。

 「うう、で、でも」

 「生き物を殺して食べるのは、罪にはならないよ。
 ベーコンだって、豚の死骸だし。
 ハンバーグだって生き物の死骸を粉々に、損壊して味付けして成形しなおしたやつだし。
 いろいろ今更でしょ?」

 その言い方はやめてほしい。
 食欲が無くなるじゃないか。
 反論したいが事実でもある。
 もとの世界でも、自分の嫌いなものを理論武装して否定するという者が現実にもネットの世界にもいたが、このようなパターンは初めてである。

 「はい♡」

 カエルはレジナの手の中でも懸命に逃げようともがいている。
 そりゃそうだ、どんな生き物でも死にたくはないだろう。
 身の危険を感じれば逃げるものだ。
 逃げようとするものだ。

 「うう」

 恐る恐る、彼はカエルを受け取る。
 カエルの締め方について、カガリは二つの方法を教えてもらっていた。
 一つは大きい石などに思いっきり脳天を叩きつける方法、もう一つはアイスピックなどの細く鋭利な物で、やはり脳天に刺す方法だ。
 状況に応じてそれぞれのやり方を変えれば良いとのことだった。
 今回は刺す方を選んだ。
 カエルが動かなくなる。
 その皮をナイフで切り込みを入れ、レジナが持ってたいくらでも飲水が出てくる不思議な皮袋から水を流しつつ剥いで行く。
 神経が締まっていないからか、時折足がピクピクと動いた。

 心臓もまだ動いている。

 (生命力、やばい)

 内心で呟きながら四つの手足を、ナイフで両断していく。
 切り終えたら、下味をつけて粉をまぶして揚げていく。

 少々焦げてしまったが、完成した。

 「おお!
 出来た出来た!」

 レジナが嬉しそうに言って、一つつまんで食べる。

 (すごいなぁ)

 改めてそう考えていると、横からアーサーも一つ摘む。

 「レモンが欲しくなるな。あと炭酸」

 完全に酒のつまみの扱いである。
 そうやって飲み食いしながら、三人は今後の予定を立てる。

 「国家機密になるから正確な地図が手に入らないのが辛いんだよねー」

 それでも大体の方角は星の位置などで確認しながら進んでいるので、道無き道を歩いていても迷ってはいないらしい。
 時々、遭難したんじゃないかと不安になるが、レジナとアーサーの足取りはしっかりしており、その不安はすぐに消えた。
 主要な街道を並走するように進んでいるらしい。
 もう少しすれば、街に出るということだった。

 「街に出たら変装して買い出しね」

 「そう簡単に入れるかね?」

 アーサーの疑問にレジナは余裕だ、と豪語する。

 「国の入国審査じゃないから普通に入れるはずだよ。
 でも、念のために変装するけど。
 カガリはカツラをやめて、今の、そのままの方が良いかな。
 アーサーは逆に髪の毛おろしてね。
 服は、うーん、カガリはともかくアーサーが難しいか、仕方ない奥の手でいこう」

 レジナの声が弾んでいる。
 しかし、カガリとアーサーは何故かうすら寒いものを感じてしまった。

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