社畜少年の異世界交流記

一樹

文字の大きさ
6 / 24
16歳の異世界転移

しおりを挟む
 
 SFの作品に出てくる、うっすい画面表示だ、これ。
 映し出されているのは、外見は二十歳前後に見える金髪碧眼のエルフの女性だ。
 名前はレイチェルというらしい。

 『とにかく無事でなによりでした、大おば、じゃなかった。
 お姉さま』

 挨拶と俺の紹介もそこそこに、ミルさんは現状の説明をレイチェルさんに求める。
 それでわかったことは、各大陸にて召喚されたシナリオ上の勇者達がやはり襲撃を受け、次々に殺されているらしいということ。
 受付さんとの会話の補足説明になるが、役割を与えられた人間はゲームと同じで何度でも死に戻りができるらしい。
 ……神族がそういう設定にしてるのだとか。
 今でこそ召喚された人間にのみこれを適用しているが、役割さえ与えればこちら側の世界の人間にもこの設定を適用できるらしい。
 ディストピア、地獄は続くよ、どこまでも。
 天国ってどこにあるんだろ。
 別に地獄にもだけど、天国にも行きたくないけど。
 あと、もしかして神族って……。
 んー、まぁ、いっか。
 余計なことは口にしないようにしよう。

 映し出されたレイチェルさんには、音声にもそして動画にも時折ノイズが入る。
 それでも、ミルさんにとっては知りたいことを知るには十分だったようだ。

「わかった。とりあえずこちらでも調査は続行しよう」

 『あ、そうだ。
 もう一つ、報告がありました。
 今回の件、水面下で【捜査局】が動いているようです』

「捜査局が? なんでまた??」

 レイチェルさんは、ミルさんの疑問にはすぐに答えなかった。
 なぜか俺へ視線を寄こしてくる。

「彼が、どうかしたのか?」

 『……特に口止めされてるわけじゃないので、言ってしまうと。
 殺されてるのは、役者だけじゃないんです。
 こちらが未確認だった、彼のような迷子の転移者も昨晩から襲われ続けてるようです。
 例外なく、遺体で発見されてます』

「……レイ、レイチェル。
 それは、捜査局の誰からの情報だ??」

 『それは』

「言い淀んだ、ということは、あいつか」

 すっかり蚊帳の外なので、俺はボケェっと話が終わるのを待つ。
 しかし、そっかぁ。
 俺って本当、運が無いんだなぁ。
 ミルさんには申し訳ないけど、ついそう思ってしまう。

 『はい。お姉さまの思う人物で間違いないと思います』

「捜査局の悪魔。イルリス・ジルフィードか。
 ということは、捜査局側も転移者の保護と今回の調査に乗り出だしてるってことか」

 『えぇ、ただあの感じからして調査というよりも、本来の捜査をしているのだと思います』

「何かを捜している??」

 話が全く見えない。
 でも、なにか深刻そうではある。
 だけど、基本迷子で部外者の俺が口を挟めるわけもない。

 『これは、私の大きな独り言です。
 昨晩、観測された転移反応はとても大きなものでした。
 大きすぎて、どこにその転移者が転移したのかわからない程でした。
 その反応と前後して、普通の転移魔法と通信魔法が使用できなくなり、つい先ほど通信魔法は不安定ながら復活しました。
 でも、いまだに転移魔法の方は使えません。
 それだけだったなら、まだ良かった。でも』

「でも?」

 『この二つの魔法が使えなくなった前後、大きな転移反応があった前後。
 観測器が妙な反応を示したんです。
 転移魔法は異世界からの物も含めて使えなくなったはずなのに、複数の【本来の魔族】の反応を感知しました。
 役所と魔王軍の上層部は、この反応によってだいぶ混乱してます』

 ???
 本来の魔族?

「ほう。それはまた」

 ミルさんの声が、少し愉快そうなものになる。

「いったい今更、捨てた世界になんの用があるんだか。
 でも、なるほど。役者の死の答えはそれだな。
 上位存在である本来の魔族なら、今の神族の魔法を書き換えることが出来る。
 なるほどなるほど。そうなってくると問題は、捜査局の捜しものが何なのかということと、なんで本来の魔族が、役者を手にかけているのか、ということか?」

 難しい話になってきたぞ。
 あと、眠くなってきた。
 俺は欠伸を噛み殺す。
 睡魔なんていつ振りだっけ?
 そうこうしているうちに、通信は終わった。

 ミルさんが俺に振り向きながら、声を掛けてくる。
 それだけで、睡魔は消えてしまう。

「少年、聞いての通りだ。
 君も現状狙われる可能性がある。
 中央大陸に戻れない以上、しばらく私と行動を共にすることになる。いいね?」

「あ、はい。わかりました」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...