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16歳の異世界転移
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ウィルさんが戻ってきたのは、翌日の早朝。
つまりはつい1時間ほど前のことだった。
用意された部屋で、寝て起きて、食堂で朝食を食べる。
と言っても、まだ胃が受け付けないのでやはりスープだけだが。
朝食を摂っている時に、ミルさんがやってきて説明してくれた。
それによると、ウィルさんは結局、あの時襲ってきた存在を倒す事が出来ずに逃げられてしまったんだとか。
「ウィル坊は、逃がしたことにだいぶ腹を立てていたな。
しかし、深手を負わせたとも言っていたから、しばらくは活動出来ないだろうとのことだ」
不思議とその説明はすんなり俺の中に落ちた。
安心した、というべきか。
「ゲームのイベントとやらに間に合わず、ボヤいていたけどな」
そう口にしたミルさんは苦笑している。
「そう、ですか」
釣られて、俺も笑った。
しかし、ミルさんの笑顔は長くは続かなかった。
直ぐに、真剣な顔になるとこんなことを言ってきた。
「アルバイトに誘ったのは私だ。
そして、君の管理も私が担当だ。
しかし、今回の件で上層部はウィルが護衛なら君にも他の仕事を任せられる、と判断したようだ」
自分の顔が引き攣るのを、嫌でも感じた。
今回、なにもしてないのに。
「それって、つまり」
「君とウィルは、これから組まされるだろうな。
あぁ、私が君の担当を外れることはない。
それだけは安心してくれ」
うわぁ。
色々事情があるんだけど、うわぁ。
ウィルさん、嫌がるんだろうな。
いや、嫌われてるわけじゃないのはわかってるけど。
俺の考えが伝わったのか、それとも顔に出ていたのかミルさんが補足してくる。
「これでも、反対はしたんだ。
しかし、上層部、いやぶっちゃけて言うとウィル坊の父親がな」
「父親」
というと、今の魔王様、ということか。
「ちゃんと家からださせて、仕事をさせることが出来たから、いい傾向だし今後も組ませよう、と乗り気になったんだ」
「ただの私情のための職権乱用じゃないですか、それ」
「それくらい、ウィル坊は外に出たがらなかったんだ」
「素人考えなんですけど、それ、必要なのは仕事じゃなくてカウンセラーさんとかじゃないんですか??」
引きこもる原因は色々あるんだろうし。
無理やり外に出すよりも、カウンセラーとか専門家の第三者が話を聞いてやった方がいい気がする。
金もあるんだし。
「他人の家の方針には口は出せないさ」
「まぁ、そうですけど」
「……君に対しても、最初はあんな態度だったが普通に接することはわかったからな。
扱い、という意味では心配していない」
ミルさんは言葉を選びながら、言ってくる。
「昨日のゴム手袋の件でもそうだし。
あの時話したように、あの子は、ウィル坊はヒトが好きなんだ。
だから、きっと君に危害を加えるようなことはないだろうさ。
むしろ」
「むしろ?」
「今までもそうだったんだが、何度かあの子は命懸けでヒトを救っているんだ。
成り行きで、だがな。
それでも、そういった実績がある。
つまり、こっちにいる間は、組まされている間はあの子は必ず君を守ってくれるはずだ。
それとヒトを救ってきた実績から、ウィル坊は魔王の子供たちの中では民衆の人気がダントツで高かったりする。
加えて、見た目もいいだろ?」
「たしかに、美形でした」
アイドルと言われたら、きっと信じたと思う。
俺は首肯した。
「まぁ、そういう意味では魔王の子供たち全員、女性人気がとても高いんだ。
婚約者の令嬢も苦労していると聞いている」
あ、これ、ここから世間話なんだな。
女性との会話ではよくあることだ。
元の世界だと、パートさん達と会話をするとよく体験した出来事だ。
話題があっちに行ったり、こっちに行ったりする。
ミルさんも例に漏れず、しばらくなんてことない話題をふって話してきた。
それを時折相槌を打ちながら聞く。
ひとしきり聞き終えたところで、
「まぁ、アレだ。
あとで正式に辞令がくるから、そうしたら改めてウィル坊のところに挨拶に行けばいい」
そう結んだのだった。
ウィルさんが戻ってきたのは、翌日の早朝。
つまりはつい1時間ほど前のことだった。
用意された部屋で、寝て起きて、食堂で朝食を食べる。
と言っても、まだ胃が受け付けないのでやはりスープだけだが。
朝食を摂っている時に、ミルさんがやってきて説明してくれた。
それによると、ウィルさんは結局、あの時襲ってきた存在を倒す事が出来ずに逃げられてしまったんだとか。
「ウィル坊は、逃がしたことにだいぶ腹を立てていたな。
しかし、深手を負わせたとも言っていたから、しばらくは活動出来ないだろうとのことだ」
不思議とその説明はすんなり俺の中に落ちた。
安心した、というべきか。
「ゲームのイベントとやらに間に合わず、ボヤいていたけどな」
そう口にしたミルさんは苦笑している。
「そう、ですか」
釣られて、俺も笑った。
しかし、ミルさんの笑顔は長くは続かなかった。
直ぐに、真剣な顔になるとこんなことを言ってきた。
「アルバイトに誘ったのは私だ。
そして、君の管理も私が担当だ。
しかし、今回の件で上層部はウィルが護衛なら君にも他の仕事を任せられる、と判断したようだ」
自分の顔が引き攣るのを、嫌でも感じた。
今回、なにもしてないのに。
「それって、つまり」
「君とウィルは、これから組まされるだろうな。
あぁ、私が君の担当を外れることはない。
それだけは安心してくれ」
うわぁ。
色々事情があるんだけど、うわぁ。
ウィルさん、嫌がるんだろうな。
いや、嫌われてるわけじゃないのはわかってるけど。
俺の考えが伝わったのか、それとも顔に出ていたのかミルさんが補足してくる。
「これでも、反対はしたんだ。
しかし、上層部、いやぶっちゃけて言うとウィル坊の父親がな」
「父親」
というと、今の魔王様、ということか。
「ちゃんと家からださせて、仕事をさせることが出来たから、いい傾向だし今後も組ませよう、と乗り気になったんだ」
「ただの私情のための職権乱用じゃないですか、それ」
「それくらい、ウィル坊は外に出たがらなかったんだ」
「素人考えなんですけど、それ、必要なのは仕事じゃなくてカウンセラーさんとかじゃないんですか??」
引きこもる原因は色々あるんだろうし。
無理やり外に出すよりも、カウンセラーとか専門家の第三者が話を聞いてやった方がいい気がする。
金もあるんだし。
「他人の家の方針には口は出せないさ」
「まぁ、そうですけど」
「……君に対しても、最初はあんな態度だったが普通に接することはわかったからな。
扱い、という意味では心配していない」
ミルさんは言葉を選びながら、言ってくる。
「昨日のゴム手袋の件でもそうだし。
あの時話したように、あの子は、ウィル坊はヒトが好きなんだ。
だから、きっと君に危害を加えるようなことはないだろうさ。
むしろ」
「むしろ?」
「今までもそうだったんだが、何度かあの子は命懸けでヒトを救っているんだ。
成り行きで、だがな。
それでも、そういった実績がある。
つまり、こっちにいる間は、組まされている間はあの子は必ず君を守ってくれるはずだ。
それとヒトを救ってきた実績から、ウィル坊は魔王の子供たちの中では民衆の人気がダントツで高かったりする。
加えて、見た目もいいだろ?」
「たしかに、美形でした」
アイドルと言われたら、きっと信じたと思う。
俺は首肯した。
「まぁ、そういう意味では魔王の子供たち全員、女性人気がとても高いんだ。
婚約者の令嬢も苦労していると聞いている」
あ、これ、ここから世間話なんだな。
女性との会話ではよくあることだ。
元の世界だと、パートさん達と会話をするとよく体験した出来事だ。
話題があっちに行ったり、こっちに行ったりする。
ミルさんも例に漏れず、しばらくなんてことない話題をふって話してきた。
それを時折相槌を打ちながら聞く。
ひとしきり聞き終えたところで、
「まぁ、アレだ。
あとで正式に辞令がくるから、そうしたら改めてウィル坊のところに挨拶に行けばいい」
そう結んだのだった。
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