毛玉スライム飼ったらこうなる

一樹

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 「だーめ! 一口だけ!!
 これはマリーの!」

 「テュケ! テュケるる!!」

 あーあー、肉の取り合いになってる。
 タマが、もっとその美味しいのを寄越せぇぇぇぇ!! とばかりに籠をガシャガシャ揺らしている。
 あー、もう、しょうがないなぁ。
 味の濃いのやるのは抵抗あるけど、お父さんやばあちゃんがあげてて平気だったなら、もう諦めるしかないか。

 「マリー、タマ貸して」
 
 あたしはため息を吐いて、マリーにそう言った。
 マリーがタマの入った籠をこちらに寄越してくる。
 その籠から、タマを取り出して肩に乗せる。籠は後部座席へ。
 その後に、膝に置いておいた弁当を持ち上げて、空いたそこへタマを誘導する。

 「はい、ちゃんちゃん。
 ここに、ちゃんちゃん」

 ぽすん、とタマがあたしの膝の上へ収まった。

 「はい、よしよし、いい子いい子。
 ほら、あたしの食べていいよ」

 「テュケ??」

 「大きいのは喉詰まらせるかもだから、小さいのね」

 そういえば、こいつ喉どこなんだろう?
 ものを食べる時、噛んで飲み込む動作してるから多分あるんだろうけど。
 基本、まんまるの毛玉だからなぁ。
 あたしはタマの前へ自分の分の弁当を見せる。
 そして、肉をなるべく箸で小さくしてタマ用にする。
 それを、弁当の蓋に載せてタマに渡す。
 
 「ほら、どーぞ」

 タマは、自分の毛を人の手に変化させてそれをガツガツと食べ始めた。
 少しは遠慮すればいいものを。
 遠慮? なにそれ美味しいの? と言わんばかりにガツガツ食べている。
 マリーがそれを見て、

 「あー!! いいな!! いいな!!!
 タマばっかりずるい~!!」

 お前は自分のあるだろ。
 そんな風に騒ぐマリーを見て、お父さんが苦笑した。
 かと思ったら、何故かあたしの頭をグリグリと撫でてきた。

 「お前は、そういうところがアイツと違って、ちゃんとお姉ちゃんなんだよなぁ」
 
 「は? ウザイしキモイんだけど。
 それに、お兄ちゃんのことは今は関係ないでしょ」

 「照れるな照れるな」

 お父さんに憎まれ口を叩いても、結局見抜かれてしまう。
 お父さんは、微笑ましいなあと言わんばかりに笑っていた。
 しかし、もう高校生なのに頭を撫でられるのは恥ずかしい。
 そうして弁当を食べ終えて、別の店でマリーご希望のアイスを買って、三人プラス一匹で食べる。
 それからトイレ休憩を挟んでから、再度目的地に向かって車が動き出した。

 「ねぇねぇ! 姉ちゃんがテイマー判定されたら、進路そっちにするの?」

 「さぁね」
 
 「そうなると、あれかな?
 たまに日曜日のテレビでやってる、テイマー同士がモンスターを闘わせる番組に出ちゃったりするのかな」

 「……それはない」

 「えー、夢があるほうがおもしろそうじゃん」

 「それは、夢を持つ人の仕事かな」

 「姉ちゃんってさ、つまんないよね」

 「あんたは失礼だな。
 そもそも、あたしは最初から乗り気じゃない」

 「なんでなんで?
 自分の未知の可能性が示されるーって、漫画みたいで燃えるじゃん!」

 そりゃ作り物の世界だからだ。
 この調子ならあと一年で、こいつ無事も厨二病を発症するな。
 それとも、エルフならぬエル腐になるかな。HAHAHA。

 「……別に、理由なんてないよ」

 マリーが不思議そうにしている。
 タマは、車の揺れが気持ちいいのか籠の中でスヤスヤ眠っている。
 そこに、お父さんが軽い口調で言ってきた。

 「とりあえず、選択肢が増えるって考えとけば、そんな、嫌な気はしないだろ」

 「……逆に減るかもよ」

 「ま、とにかく、だ。
 せっかくのドライブなんだから、もう少し楽しそうにしてくれよ。
 パパ泣いちゃうぞ」

 「キモイ」

 「口が減らないなぁ」

 言っても、お父さんは楽しそうだ。
 
 
 そんなこんなで車を走らせ、ようやっと目的地にたどり着いた。
 歴史、時代の転換点とされる千年前より、もっともっと前の時代から続くとされる神社と呼ばれる宗教施設。
 何度か資料をもとに立て替えられているらしいその建物は、真っ赤な丸太を組み合わせて作られた鳥居。
 その鳥居と呼ばれるものがいくつも並んだ道の先にあった。
 観光名所だけあって、ほかの客、参拝客もそれなりにいた。
 受付所まで行くと、古代から伝えられた衣装に身を包んだ巫女さんが、出てきて受付をしてくれた。
 と言っても、お父さんが事前に予約をしてくれていたらしい。
 すぐに社の中に入る事が出来た。
 
 案内されるまま、あたし達は社の中を進んだ。
 
 「それではここでお待ちください」

 そうして通されたのは、椅子が並んだ、なんか儀式とかそういうのをするらしき場所だった。 
 並んで座ること数秒。
 膝の上に置いた籠の中のタマが起きて、あちこちをキラキラした目で見ている。

 「ねーねー」

 神主さん、まだかなー。
 そう思っていると、そんな幼い声が聞こえた。
 見れば、いつのまにそこにいたのか。
 あたしの目の前に、真っ白いキツネがちょこんと座っていた。

 「あ、見えるんだねー。声も聴こえる、と。
 ねーねー、ボクは何頭に見える?」

 「え? えっと、一頭?」

 「おー、すごい、珍しいねー。
 言葉もわかる、と。
 それに、うん?
 うーん、うん?
 君、魔法使えないんだよね?
 でも、あれ?
 こんな珍しい能力持ってる子、久しぶりだなぁ。
 昔は沢山いたんだけどね。でも、うん、いなくなっても仕方なかったんだ。
 だから、大事に使うんだよ?
 それは、誰かを救うことも出来るし、破滅させたり、不幸にすることだって出来る。
 だから、大事に大切に使うんだよ」

 この子が、神主さんなのかな?
 人の言葉話してるし、鑑定してるっぽいこと言ってるし。
 亜人よりは、もふもふ率100パーセントだけど。

 「は、はぁ」

 「あとあと、ボクたちの神様は商売繁盛も司ってるから。
 このあとお参りも忘れずにね。お供えがあると嬉しいかな。
 お父さんに、お供えはケチらないよう言ってね」

 「わ、わかりました」

 「はい、それじゃ終わり」

 「あ、ありがとうございました」
 
 あたしがぺこり、と頭を下げた時だった。


 「姉ちゃん?
 姉ちゃん、終わったよー?」

 そんな妹の声。
 続いて、

 「本番で寝るとか、お前、テイマーにならなくても大物になるぞ」

 そんなお父さんの呆れたような声。

 「え? え?」

 戸惑うあたしの前に、やはり古代から受け継がれてきたらしい衣装を着た、おじいさんがやってきて。

 「はい、お疲れ様でした。
 これが結果です」

 と言って、折りたたまれた紙を渡してくれた。
 なかに鑑定結果が書かれているのか。
 あたしとマリーが中身を見ようとしている横で、お父さんが神主さんに呼ばれて何やら話し合っていた。

 「おおー」

 紙には、適性職とかそんなのが書かれていた。
 割と細かいな。
 えーと、おーあったあった。
 適性職の中に、【魔物使いテイマー】の文字を見つける。
 つーことは、調教師にもなれるってことでもあるらしく、その文字も見つけた。
 猫とかは好きだけど、好きを仕事にはしたくないしなぁ。
 まぁ、わかっただけで良しとしよう。
 別に、その職業に特別な興味があるわけでもないし。
 あー、終わった終わった。

 「よし、それじゃ、あとは困ってる人を助けて縁故からの出世コースだ!」

 「俺TUEEEE系の読みすぎだ。アホ」

 「えー、楽しいじゃん!
 姉ちゃん、お姫様助けたら教えてね!」

 あたしは妹の言葉を聞き流しつつ、お父さんを見た。
 神主さんとの話が終わったのか、お父さんがこちらへやってきた。
 しかし、その表情はどこか引きつっているようにも、苦笑しているようにも見えた。
 なんだなんだ、楽しそうにしろと言ってたのはお父さんだろうに。
 あたしはもう一度、鑑定結果に視線を落とす。
 こうやって見れば、御籤とか占いみたいだ。
 と、あたしはその文字を見つけた。

 なんだこれ?
 【言霊ことだま使い】??
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