毛玉スライム飼ったらこうなる

一樹

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 あとこれはなっちゃんから聞いたことだけれど。
 山とか森とかは、たとえ私有地であっても盗賊や殺人などに利用されやすいらしい。
 主に遺体の処理的な意味で。
 そして、まぁ、なんというか表沙汰になっていないだけで山で採取依頼をこなす場合、そういうご遺体が出たら受付で注意されることもあるとか。
 怖い怖い。

 そんなこんなで、幸いにも特に何も無く山菜採りを終えることが出来た。

 お金は別に支払われるが、何故か山菜もたくさん渡された。
 仲介料等で天引きされるので、その分には足りないけれどせめて御家族で食べて欲しいとのことだった。
 丁寧に頭を下げられ、お礼を言われて、あたし達はその日の仕事を終えることが出来た。
 山のすぐ横の砂利道を自転車で雑談をしつつ、あたし達は帰路についた。

 「やっぱり天麩羅だよねぇ」

 あたしは今日か、明日の夕飯の献立に胸を踊らせる。
 なっちゃんも、もらった山菜を美味しく食べることを夢想してニコニコしている。
 と、少し先の薮が風も無いのに激しく揺れた。
 獣かモンスターか?
 そう思って、あたしとなっちゃんは同時に自転車を急停止させる。
 唯一自転車の籠に入っていたタマが、なんだろう? 呑気に揺れた薮の場所を見た。
 と、ボロボロの半裸、というかほぼ全裸の人間族の女性が飛び出してきた。
 この距離でもわかるほど、あちこちに傷がある。
 それが山の中を抜けて出来たものと、そうでなさそうなものとがあった。
 女性があたし達に気づいて、声を上げた。

 「た、すけて……っ!!」

 その声はほとんど掠れていて、なんとか音になった感じだった。
 そうして、あたし達の方に駆け寄ってくる。
 と、その女性が出てきた薮がまた揺れた。
 今度は、明らかに悪そうな鬼人族の男性が出てきた。
 あたしの横を突風が吹き抜けた、少しおいてなっちゃんが乗っていた自転車が倒れる音が、耳に届く。
 突風の正体は、武器を手に駆け出したなっちゃんだった。
 なっちゃんと女性がすれ違う。
 なっちゃんがあの大剣を、少し低い位置で横薙ぎにする。
 すると、いかにも悪そうな男性の足が二本とも鈍い音を立てて変な方向へ曲がった。
 というか、折れた。

 「なっちゃん、すげぇーー!! カッコイイ!!」

 「テュケーー!!」

 そんなあたし達の歓声のすぐあと、いかにも悪そうな人の絶叫が響いた。

 「ウソ」

 全裸の女性が信じられない、とぱかりに呟いてへなへなとその場にへたりこんでしまった。

 なっちゃんが指示を飛ばす。

 「いいから! ココロ! その人になにか着せて!!」

 あたしは、ハッとしてすぐに魔法袋からバスタオルを取り出す。
 あ、いや、ここは着替えだ!!
 いつものように着替えをいれてたから、とりあえずそれを。
 あたしは、なにしろ初めてのことだからアタフタと着替えとバスタオルを出して、女性に掛けた。

 「あの、大丈夫ですか?」

 言った後に、やっちまったと思った。
 見るからに大丈夫じゃないのに、あたしは何を言っているんだろう?

 「って、あ! ごめんなさい!!」

 女性があたしを見てポロポロ泣き出した。
 はっ!
 そうだこういう時こそモフモフの出番だ。
 タマ、お前の出番だ!
 
 いや、まずは、ええとええと。

 「あの、良かったら飲み物ともふもふをどうぞ」 

 あたしは口をつけていなかったジュースと、タマを女性にセットで渡した。
 読者諸君、人間パニくると支離滅裂なことをする。
 ソースはあたしだ。
 女性は涙を流しつつポカンとして、それを受け取ってくれた。
 そうこうしている間に、なっちゃんが悪漢をふんじばり、猿轡まで噛ませていた。
 手際、いいなぁ。

 「とりあえず、警察と救急車呼ぶから。ココロ、その人に聞けるだけ話聞いてもらってくれる?」

 「う、うん!」

 あたしは落ち着くかなと思って、ヒィとツグミちゃん達も外に出す。
 そして、二匹もキャリーケースの中で顛末を見ていたからか、女性にスリスリと甘えるように体を擦り付けたりしてくれた。
 この子達が賢くて良かった。
 そうして、話を聞いたところによると。
 女性は、悪漢によって乱暴目的で拐われてきたらしい。
 大学生である彼女は、家の都合というか考え方により自立するために学費はともかく、生活費の仕送りは無しのバイト生活をしているのだとか。
 夜、バイト先から帰宅途中に襲われ、車に押し込められ、そのまま連れ去られた。
 性的暴行は結局未遂だったものの、ことに至ろうとするまでの過程で彼女を大人しくさせるために、悪漢はかなり彼女を殴ったらしい。
 そうして山に入って、まぁ特殊なプレイをするつもりだったんだろう悪漢の隙をついて逃げ出したところにあたし達が遭遇したという事みたいだ。
 
 同性ということもあってか、女性は彼女に起きたと屈辱的な顛末を説明してくれた。
 時折、言葉に詰まって泣きながらも話してくれた。
 もちろん、これを記すにあたって女性には許可を得ているし、女性自身も注意喚起になれば、という想いがありこうして文字に起こす許可を出してくれた。
 この場を借りて、改めてこの女性には許可をだしてくれた事への感謝を捧げたい。
 ありがとうございました。

 さて、やがて警察と救急車が到着してそれぞれの隊員へあたし達は説明をした。
 救急隊員の人達は女性を救急車に乗せると、病院へ急行した。
 警察の方は、この地区の近くの交番のお巡りさんが駆けつけてくれたのだけれど、事態が事態だったので応援が呼ばれた。
 また、何度も書いているようにこの当時のあたし達は未成年だったので、冒険者ギルドとそして家族にも連絡がいった。
 警察署で事情を聞くから、終わる頃に迎えに来て欲しいと家族に連絡がいった。
 その日はそんな感じでバタバタして終わった。
 夜、軽トラで迎えに来たばあちゃんに色々聞かれたが、疲れていたので適当に答えた。
 なっちゃん家もお母さんがやっぱり軽トラで迎えに来た。
 乗用車だと自転車を乗せられないのだ。
 なっちゃんのお母さんと、ウチのばあちゃんが頭をペコペコ下げあって、別れた。
 その帰り、本当はうちもお母さんが来るはずだったらしい。
 でも、エリーゼの面倒と夕飯の準備があるので、ばあちゃんが来たらしい。

 帰宅したら帰宅したで家族に質問責めにあったけれど、疲れていたので適当に返して終わった。

 さて、勘のいい人なら察しているだろう。
 そう、この話もここで終わりではない。
 続きがあるのだ。
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