【なにか】助けてくれ【いる】

一樹

文字の大きさ
138 / 139
たぶん、この土地呪われてる

しおりを挟む
 「偶然も重なれば必然に見えてくるから、不思議だよ」

 そう口を開いたのは、コテハン【雇われ魔族】こと、ジュリだった。
 自称したとおり、女性である。
 仕立てのいいスーツを着て、派手にならない程度のメイクをして、彼女はこの世界での存在の中でも、現時点で旧神を除いて最も古株とされている【魔女】と会話を交わしていた。
 会話を交わしている舞台は、魔女の家だ。
 話しているうちにジュリは知ったのだが、この魔女は一度だけ掲示板における、いわゆる神殿さん絡みの事件に関わっていた。

 「偶然だと、君は本気で考えているのかい?」

 言って、魔女はキンキンに冷えた好物の炭酸飲料を口にする。

 「まさか、ただ偶然だと考えたいだけ」

 「だろうな」

 「……貴女も、同郷出身者なら知っているはずだ。
 両面宿儺の厄介さは。
 あれは――」

 「天変地異を引き起こす、だったか。
 でも、現状を見る限り起きたのは体調不良だ」

 「…………」

 「納得していない顔だな」

 ジュリは魔女の言葉に大きくため息を吐くと、話し始めた。

 「私が知る限り、両面宿儺の都市伝説はそれがある場所に災害、災厄をまき散らすものだったはずだ。
 先日から、私が任されている地、南大陸で地震に嵐、火山の噴火と立て続けに起きている。
 その先日、というのが私が掲示板を立てて、そして、神殿さん、ライさんが私の家で両面宿儺の箱を見つけた日だった。
 それまでは私を呪っていたはずなのに、箱が見つかり開けられた直後に大震災といっても過言ではない震災が起きた。
 城も半壊した。というか、今まで震災が起きてなかったからか耐震工事されてなかったってのもあるけど。
 これは、本当に偶然なのか?」

 「さて、どうだろう。
 しかし、君の家で見つかった両面宿儺は処分したのだろう?
 まぁ、元々の話では処分はできなかったみたいだけど」

 「えぇ、少なくとも私は行方不明になっていない。
 この通りピンピンしてる」

 「なら、答えは単純明快だと思う」

 ジュリは魔女の言葉を受けて、彼女を静かに見つめた。

 「誰かが君の建てた掲示板に書き込んでいただろう。
 見ていた、実験だったんじゃないか、と。
 そして、元々の話でも言われていたじゃないか。
 両面宿儺は複数作られていた、と。
 君の家から出てきたもので終わり、なんてことあると思うかい?」

 魔女はそこで言葉を切って、喉を再度炭酸飲料で潤してから続けた。

 「ここまで言えばもうわかるだろう。
 両面宿儺は複数作られていた。
 そのうちの一つが実験目的で君の家に仕掛けられた。
 そして、残りが南大陸に持ち込まれている、という考え方もできる。
 ただ、偶然というならこっちの方が私は気にはなってるが。
 ライはまだ目覚めていないんだろう?
 あの日、呪いの影響を受けてからずっと表に出ているのは、リムだと聞いている。
 巻き込まれた、視人君はその日のうちに回復したのに、だ」

 リムというのは、コテハン【無双】のことだ。

 「二つの体がくっついた奇形児のミイラの呪い。
 その呪いの影響を一番受けたのは、一つの体に二つの魂が封じられた存在の片割れだったというのは、あまりにも出来すぎていると感じるが、どうだろう?
 そもそも、今回の両面宿儺は、本当に君を呪うものだったのか?
 いや、きっと君も、魔王軍も、そして中央大陸もターゲットに違いなかったんだろう。
 そこにライが加わっていただけだ。
 あの掲示板も有名になった、君が依頼するのも計算されていたのかもしれない」

 「狙いは最初から、【神殿さん達】だったと?」

 「さて、そこは犯人に聞いてみないとわからないが、つかまって無いんだろう?」

 ジュリは頷いた。
 魔女はそれを見てから、さらに続けた。

 「南大陸の災害については今はわきに置くとして、それを除けば今回の騒動で一番の被害者が誰かがわかる。
 殺された、死んだのは、ライだけだ。
 そして、ずっとリムが表に出ている、ということは」

 「ライは、本当の意味で死んだ?」

 「もしくは、魂が奪われたか。
 リムは、相当荒れてるんじゃないか?」

 魔女の言葉に、ジュリは答えなかった。
 その代わり、

 「でも、奪われたとするなら、いったい、何のために」

 そう漏らす。
 魔女は苦笑を浮かべて、こう返した。

 「それについては、ライとリムの表向きの保護者、イルリス金髪ジルフィードお化け、あのバカ弟子に聞いてみるといい」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【実家が】一家離散するかもしれん【修羅場】

一樹
大衆娯楽
家の揉め事をスレ立てして愚痴る話です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

処理中です...