【なにか】助けてくれ【いる】

一樹

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たぶん、この土地呪われてる

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 「偶然も重なれば必然に見えてくるから、不思議だよ」

 そう口を開いたのは、コテハン【雇われ魔族】こと、ジュリだった。
 自称したとおり、女性である。
 仕立てのいいスーツを着て、派手にならない程度のメイクをして、彼女はこの世界での存在の中でも、現時点で旧神を除いて最も古株とされている【魔女】と会話を交わしていた。
 会話を交わしている舞台は、魔女の家だ。
 話しているうちにジュリは知ったのだが、この魔女は一度だけ掲示板における、いわゆる神殿さん絡みの事件に関わっていた。

 「偶然だと、君は本気で考えているのかい?」

 言って、魔女はキンキンに冷えた好物の炭酸飲料を口にする。

 「まさか、ただ偶然だと考えたいだけ」

 「だろうな」

 「……貴女も、同郷出身者なら知っているはずだ。
 両面宿儺の厄介さは。
 あれは――」

 「天変地異を引き起こす、だったか。
 でも、現状を見る限り起きたのは体調不良だ」

 「…………」

 「納得していない顔だな」

 ジュリは魔女の言葉に大きくため息を吐くと、話し始めた。

 「私が知る限り、両面宿儺の都市伝説はそれがある場所に災害、災厄をまき散らすものだったはずだ。
 先日から、私が任されている地、南大陸で地震に嵐、火山の噴火と立て続けに起きている。
 その先日、というのが私が掲示板を立てて、そして、神殿さん、ライさんが私の家で両面宿儺の箱を見つけた日だった。
 それまでは私を呪っていたはずなのに、箱が見つかり開けられた直後に大震災といっても過言ではない震災が起きた。
 城も半壊した。というか、今まで震災が起きてなかったからか耐震工事されてなかったってのもあるけど。
 これは、本当に偶然なのか?」

 「さて、どうだろう。
 しかし、君の家で見つかった両面宿儺は処分したのだろう?
 まぁ、元々の話では処分はできなかったみたいだけど」

 「えぇ、少なくとも私は行方不明になっていない。
 この通りピンピンしてる」

 「なら、答えは単純明快だと思う」

 ジュリは魔女の言葉を受けて、彼女を静かに見つめた。

 「誰かが君の建てた掲示板に書き込んでいただろう。
 見ていた、実験だったんじゃないか、と。
 そして、元々の話でも言われていたじゃないか。
 両面宿儺は複数作られていた、と。
 君の家から出てきたもので終わり、なんてことあると思うかい?」

 魔女はそこで言葉を切って、喉を再度炭酸飲料で潤してから続けた。

 「ここまで言えばもうわかるだろう。
 両面宿儺は複数作られていた。
 そのうちの一つが実験目的で君の家に仕掛けられた。
 そして、残りが南大陸に持ち込まれている、という考え方もできる。
 ただ、偶然というならこっちの方が私は気にはなってるが。
 ライはまだ目覚めていないんだろう?
 あの日、呪いの影響を受けてからずっと表に出ているのは、リムだと聞いている。
 巻き込まれた、視人君はその日のうちに回復したのに、だ」

 リムというのは、コテハン【無双】のことだ。

 「二つの体がくっついた奇形児のミイラの呪い。
 その呪いの影響を一番受けたのは、一つの体に二つの魂が封じられた存在の片割れだったというのは、あまりにも出来すぎていると感じるが、どうだろう?
 そもそも、今回の両面宿儺は、本当に君を呪うものだったのか?
 いや、きっと君も、魔王軍も、そして中央大陸もターゲットに違いなかったんだろう。
 そこにライが加わっていただけだ。
 あの掲示板も有名になった、君が依頼するのも計算されていたのかもしれない」

 「狙いは最初から、【神殿さん達】だったと?」

 「さて、そこは犯人に聞いてみないとわからないが、つかまって無いんだろう?」

 ジュリは頷いた。
 魔女はそれを見てから、さらに続けた。

 「南大陸の災害については今はわきに置くとして、それを除けば今回の騒動で一番の被害者が誰かがわかる。
 殺された、死んだのは、ライだけだ。
 そして、ずっとリムが表に出ている、ということは」

 「ライは、本当の意味で死んだ?」

 「もしくは、魂が奪われたか。
 リムは、相当荒れてるんじゃないか?」

 魔女の言葉に、ジュリは答えなかった。
 その代わり、

 「でも、奪われたとするなら、いったい、何のために」

 そう漏らす。
 魔女は苦笑を浮かべて、こう返した。

 「それについては、ライとリムの表向きの保護者、イルリス金髪ジルフィードお化け、あのバカ弟子に聞いてみるといい」
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