復讐遊戯~太陽に捧げる鎮魂歌~

一樹

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だって、嬉しかったから

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 私は逃げたのだ。
 現実から、人生から、逃げたのだ。
 
 逃げたいことなんてたくさんあった。
 嫌な事なんてたくさんあった。
 
 
 それでも、最後まで信じていた。
 人を信じていた。
 それは、お姉ちゃんがいたからだ。
 落ちこぼれで、お世辞にも頭なんてよくないお姉ちゃんは、いつでも馬鹿にされていた。
 叔父さん達から、お父さんとお母さんから、同級生達から。
 私以上に嫌な目にあっていたのに。
 私以上に逃げたかったはずなのに。

 それでも逃げなかったお姉ちゃんは、とても優しい人だった。
 世界にはお姉ちゃんみたいな優しい人がいる。
 卒業までの我慢だ。
 そう、思っていた。
 信じていた。

 最後まで頑張ろう、そう思っていた。
 どんなに汚水を被ろうと、言葉で侮辱されようと、お姉ちゃんのように笑っていようと思った。
 
 他人は他人を否定する生き物だというのを知った。
 
 いや、知っていたはずだった。
 前の人生でも、今の人生でも、多かれ少なかれそういう人間がいるのだと、私は知っていたはずだった。
 そして、人生はとても辛く苦しいものだと身を持って知っていたのに。
 私は馬鹿なのだ。
 
 馬鹿は死ななきゃ治らないと言うけれど、死んでも治らなかったのだ。
 私の馬鹿は。
 
 前世の私も馬鹿だった。
 今世の私も馬鹿だった。
 
 ゲームの世界への転生。
 それはまるで夢の様な話しだ。
 転生した先がヒロインだったなら、文字通り夢の様な人生を過ごせたかもしれない。
 少なくとも、学生時代はバラ色の高校生活を送れたことだろう。
 しかし、人生は上手くいかない。
 私が転生したのは、ゲームの中では悪役という立ち位置のキャラだった。
 嫌われるのが運命づけられた人生。
 断罪と破滅が待つだけの人生。
 その事を思い出したのは、物語が動き出した時。
 ヒロインが転校してきた時だった。
 私が彼女を虐める運命。
 私が断罪される運命。
 誰にも助けてもらえず、破滅を待つだけの運命。
 そう、思っていた。

――嫌だ!!――
 
 前世の私が叫んだ。

――そんな運命糞くらえだ!!――

 前世の私が叫ぶ。
 破滅を待つだけの運命なんて嫌だと。
 抗えるだけ、抗ってやると叫ぶ。
 今度こそ抗って、戦って、無様でいい、どんな形でもいい生きぬいてやると叫ぶ。

 叫ぶのは簡単だ。
 行動するのは前世の私じゃない。今を生きている私だ。
 
 私は抗った。戦った。抵抗した。
 声に従うように、ただ生きた。生きるために戦った。

 それでも数の暴力には叶わなかった。

 それだけの事。
 それだけの事だ。

 私はヒロインをイジメたのだと言う。
 同じ痛みを思い知れ、とゲームの断罪イベントを待つことなく、違った形で私は断罪された。
 ゲーム、乙女ゲームの攻略対象者達が、私を取り囲み、押さえつけ、そして、乱暴された。
 屈辱的なそれ。
 ゲームの様な紳士的なキャラなど何処にもいない。
 ゲームの様な魅力的なキャラなど何処にもいない。
 居るのは、獣の様な男達。
 ただただ気持ち悪い、痛い時間を耐えた。
 それしか出来なかった。
 
 そして、少しして、私はその事に気付いた。

 望まぬ命、乱暴された故に宿ってしまったそれ。

 絶望するには十分だった。
 私は馬鹿だった。
 人を信じていた結果がこれだ。
 戦った結果がこれだ。
 運命に抗った結果がこれだ。
 姉の様な優しい人間の方が稀なのだ。
 
 姉は何も知らなかった。
 弟も何も知らなかった。
 両親だって何も知らなかった。

 どうして良いのかもわからなくて、私は逃げ出した。投げだした。
 私は今の人生を、前世と同じように逃げ出した。

 それなのに、前世の時と違っていつまで経っても転生はしない。
 天からのお迎えもこない。
 私は、幽霊になって自分の葬式を見ていた。
 弟が両親が、親戚たちが悲しむ姿を見ていた。

 私が死んで、一番変わったのは姉だろう。
 優しかった目は、荒み、鬼のように険しくなった。
 私が処分し損ねた日記を読んで、変わってしまった。
 憎しみと怒りが、人を変える瞬間を見てしまった。
 怖くはなかった。
 ただ悲しみに暮れる家族よりも、姉のそれは、とても嬉しく感じた。

 だから、もう一度、戦おうと決めたのだ。
 


 
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