紅い夜露と月下の邂逅

一樹

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 さすがに、毎夜毎夜血を吸われることは無かった。
 シンとしては、毎日吸われても良かったが、できるだけ永くここで、飼われるための処置としてある程度吸血の期間をあけるようになっていた。
 それは法律で決められているらしい。
 だからこそ。
 間が空いてしまうからこそ、シンは血を吸われる時の感覚に中々慣れることができないでいた。

 「あ、はっ、んむ」

 声が漏れるのが嫌で、指をあるいは自分自身の手を噛む。
 ノヴァーリスの息が、首をくすぐる。
 それもまた、刺激になってしまう。
 今、シンはノヴァーリスに後ろから腕をまわされ、その中にすっぽりと収まっていた。

 「声を抑えるな」

 低く、囁かれ無理やり手を口から離されてしまう。
 
 「っ、や、いや」

 両手をノヴァーリスに拘束され、力なくイヤイヤをする。

 「お前に拒否権はない」

 甘い囁きが耳朶を打つ。
 そのまま、強く噛みつかれ一気に血を吸い上げられてしまう。

 「あ、アアア!!」

 ジュルジュルと、血を啜る音がよく聞こえる。

 「いやぁ、もう、やァ!」

 吸血鬼相手への抵抗なんて、ほとんど意味を成さない。
 それでもゾッとするほどの快楽から、シンは逃れようとする。

 「ぁァンっ」

 自分が体から抜け出て彼のモノになる。
 彼の血肉になる。
 
 「………っン。もう、や」

 「それは、どれに対しての【嫌】だ? 
 こうして、血を吸われ性的な快感を与えられることか?
 それともーー」

 「ふぅ、アっ」

 「こうやって、お前のことを舐めることか?
 もしくは」

 そこでノヴァーリスの手が、シンの下半身へ伸ばされる。
 彼が触れる箇所。
 その全てが甘く、軽い火傷のような痛みと熱さをシンに与える。

 「んっ、どこ触って。
 え、ちょっと、まーー」

 正直、こうして抱き締めれるのは嫌いではない。
 母を思い出すのだ。
 母よりも力強い腕だ。
 しかし、感じるのは家族といた頃のあの温かさ。

 「こうして、感じてしまうことか?」

 伸ばされた場所。
 布越しに擦られる。

 「あっ、あっ、ああっ!」
 
 「気持ちいいみたいだな」

 「やめて、くださ、おれ、ひとりでやりますから!」

 「遠慮するな。
 それに言っただろ、お前に拒否権はない」

 ズボンの中へ手を突っ込まれ、今度はそのまま擦られる。
 同時に、首筋へまた噛みつかれ血を吸い上げられる。

 「ヒッ、アアン! いや、やああああンっ!」

 二つの異なる快感が押し寄せる。
 頭が溶けて、どうにかなってしまいそうだ。

 「いいぞ、もっと啼け」

 絶頂は早かった。

 「ン、ああああ?!」

 ノヴァーリスの手の中へ欲を吐き出す。
 
 「ふ、はぁ、はぁ、はぁ」

 息を調えていると、無理矢理首を横に向かせられる。
 そして、やわらかな感触がシンの唇に触れた。

 「よく出来ました。
 たまには趣向を変えないと、飽きてしまうだろ?」

 飽きたりしません。
 しないので、恥ずかしいことやめてください。 
 そう、言いたいのに呂律がまわらない。
 達したばかりで敏感になっている体を優しく抱き締められる。

 「それに、溜まっていたようだしな。
 全然食べていない、と報告も受けている」

 「ふあっ」

 「もう少し、俺のために肉を付けてもらわないと困るんだ」
 
 ここから先の事ができないだろ、と言われる。
 ここから、先?
 ここから先ってなんだろう?

 「吸血鬼の衝動は血を吸えばある程度収まる。
 でも、ニンゲンと同じで、食事だけじゃ性的欲求が完全に昇華されることはないんだ」

 「おれ、おとこ、ですよ?」

 「知っているさ」

 わからない。
 シンにはわからなかった。
 女ではない自分は、そうしてまぐわい、交わったところで子供を孕むことはできない。
 何故、ノヴァーリスがここから先を望むのか、シンには理解できない。
 彼は王様なのだ。
 吸血鬼達の中の、王様、絶対権力者だ。
 美しい女性を侍らすことなんてわけないだろう。
 何故、自分なのだ。

 「なら、なんで」

 「お前に俺を覚えさせて、誰にもなびかせないようにするためだ」

 わからない。
 やっぱり、わからない。
 いや、治癒能力とそして性欲処理のためということはわかるのだ。
 でも、治癒能力が欲しいのは理解できる。
 しかし、こんなやせ細った男を仮に太らせたとしてもそれを抱いて得られる悦びなんてあるわけがないのだ。

 「だから、なんで?」

 「わからない、か?」

 と、またキスを落とされる。
 今度は鎖骨のところに紅い花が咲いた。

 「まぁ、おいおい与えてやるさ」

 なんの話しだろう?
 何を与えるというのだろう?

 「お前は、俺の命を救ったということがどういうことなのか、もっと自覚をするべきだ」

 「そんな大層なことは」

 「代わりにお前は命を落とすところだった」

 と、今はもう完全に塞がっている胸元にノヴァーリスは触れてくる。

 「お前の味を知らなければ捨て置いた。
 お前のその毒のような血の味を知らなければ、こんなことしていない」

 心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
 ドクドクと脈打つそれは、きっとノヴァーリスに伝わっている。

 「でも、その、俺は」

 死にたかった、そう続けようとしたシンの言葉は遮られる。

 「だから、死ぬことは許さない」

 先ほどよりも、強い力で抱き締められる。
 絶対に、離さない。逃さないとばかりに腕に力が込められる。

 「お前は、俺のものだ」
 
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