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4章 我が女神、それは
一人でもできるもん
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「アンジェラか?」
「ええ、そうよ」
白ベースに水色を差した聖職者の格好をした少女はその場でくるりと回る。シスター服に近いデザインであるが、現実のものと比べると可愛らしさが強調されていた。それゆえスカート丈が短く、回るとふわりとスカートが弾んだ。
「見違えたかしら?」
「そうだな。あの暴れ回ってる時よか可愛いと思うぞ」
「そっちと比べてじゃないわ。現実世界のあたしと比べてよ」
「知ってる」
「そういうところ嫌いよ」
顔をぷくーっと膨らましてポカポカ叩かれる。
「ところでどうしてその姿なんだ? いつもみたいに暴れないのか?」
アンジェラが周囲を見渡す。
アンジェラとの戯れ合いがとても目立ったらしく周囲の視線を集めていた。
「場所変えましょう」
アンジェラが中空に浮かべた半透明のコンソールを操作する。
少しして通知が鳴り、俺の目の前にもコンソールが現れる。そこにはアンジェラからパーティ申請が届いていた。
「外で話しましょう」
申請に許可で返す。アンジェラが砦の外に向かって歩き出したので、俺も続けて砦の外に向かって歩き出した。外ではアンジェラが手を後ろで組んで待っていたのだが、それ以外のプレイヤーはとんと見えなくなった。
「パーティを組めば外でも一緒に行動できるのか?」
「知らないで承認したの?」
「来るもの拒まずの精神だからな」
「大物ね」
「そうじゃなきゃアンジェラの騎士になんてならないさ」
「それもそうね」
アンジェラが「行きましょ」と言って草原を歩き出す。
俺はその横につく。
草原を歩くアンジェラは今にもスキップを始めそうなぐらい機嫌が良かった。軽い足取りで花畑に近づいたり、川辺で手に水をすくったり、道中出くわしたモンスターにハンマーで脳天を砕いたり。やることなすことが新鮮で楽しげなように見えた。
「ゲームが好きなのか?」
あまりに楽しげに遊び回るものだから思わず尋ねたのは当然の帰結であった。
しかし、アンジェラは顎に指を当てて考え込んでしまう。
「好き……そうね、きっと好きなんだと思うわ」
それは自分の心に確認を取っているように見えた。
「あたし、電脳世界――インターネットって言葉が主流だった時代から電脳世界の神様になるために色んなこと学んだの。ゲームも沢山やったわ。勉強のつもりだったけど、そうね、嫌いなものは続かないわよね」
笑顔が見れた。
心から好きだと言えるものがあるのは素晴らしいことだ。それがゲームであろうとなんであろうと素晴らしい。それは誰にも否定する権利はない。ゆえに俺のアイドル趣味も否定されるべきではない。
「アンジェラは精霊って樹神さんから聞いたのだが、精霊同士でゲームで遊んだりしたのか?」
「いいえ、それはなかったわ」
「精霊はあまりゲームで遊ぶ文化なかったのか?」
「たしかに少ないわね。でも遊ぶ子は遊ぶから同好の士みたいなサークル活動はあったわ」
「人とあまり変わらないんだな。アンジェラはそこには参加しなかったのか?」
アンジェラは言葉を詰まらせる。視線を逸らし、「えー」とか「あー」と言い訳を探し回った挙句、最後は悟った目で答えた。
「あたし、友達いないから……」
心臓に悪い静寂が流れる。
「悪い……」
「謝らなくていいわ。よけいに落ち込んじゃうから……」
場が凍りつく。
互いに冷え冷えとした空間を温めようにも全身が凍りつき身動きが取れなくなっていた。
そこに場を溶かした救世主が現れる。
モンスターだ。
ゴブリンを一回り大きくしたようなリーダー格のモンスター。
二人でかかれば雑魚でしかなく、経験値も素材も美味しくない。それでも助かった。
「アンジェラ! モンスターだ!」
「――任せて!」
道中で出会った他のモンスターとの戦闘では互いにそんな掛け声なんてしなかったのに、今はわざとらしく声を掛け合う。終わった話にするために、空気を変えるために、二人して声を掛け合った。
アンジェラと心が一つになった初めて瞬間であった。
「ええ、そうよ」
白ベースに水色を差した聖職者の格好をした少女はその場でくるりと回る。シスター服に近いデザインであるが、現実のものと比べると可愛らしさが強調されていた。それゆえスカート丈が短く、回るとふわりとスカートが弾んだ。
「見違えたかしら?」
「そうだな。あの暴れ回ってる時よか可愛いと思うぞ」
「そっちと比べてじゃないわ。現実世界のあたしと比べてよ」
「知ってる」
「そういうところ嫌いよ」
顔をぷくーっと膨らましてポカポカ叩かれる。
「ところでどうしてその姿なんだ? いつもみたいに暴れないのか?」
アンジェラが周囲を見渡す。
アンジェラとの戯れ合いがとても目立ったらしく周囲の視線を集めていた。
「場所変えましょう」
アンジェラが中空に浮かべた半透明のコンソールを操作する。
少しして通知が鳴り、俺の目の前にもコンソールが現れる。そこにはアンジェラからパーティ申請が届いていた。
「外で話しましょう」
申請に許可で返す。アンジェラが砦の外に向かって歩き出したので、俺も続けて砦の外に向かって歩き出した。外ではアンジェラが手を後ろで組んで待っていたのだが、それ以外のプレイヤーはとんと見えなくなった。
「パーティを組めば外でも一緒に行動できるのか?」
「知らないで承認したの?」
「来るもの拒まずの精神だからな」
「大物ね」
「そうじゃなきゃアンジェラの騎士になんてならないさ」
「それもそうね」
アンジェラが「行きましょ」と言って草原を歩き出す。
俺はその横につく。
草原を歩くアンジェラは今にもスキップを始めそうなぐらい機嫌が良かった。軽い足取りで花畑に近づいたり、川辺で手に水をすくったり、道中出くわしたモンスターにハンマーで脳天を砕いたり。やることなすことが新鮮で楽しげなように見えた。
「ゲームが好きなのか?」
あまりに楽しげに遊び回るものだから思わず尋ねたのは当然の帰結であった。
しかし、アンジェラは顎に指を当てて考え込んでしまう。
「好き……そうね、きっと好きなんだと思うわ」
それは自分の心に確認を取っているように見えた。
「あたし、電脳世界――インターネットって言葉が主流だった時代から電脳世界の神様になるために色んなこと学んだの。ゲームも沢山やったわ。勉強のつもりだったけど、そうね、嫌いなものは続かないわよね」
笑顔が見れた。
心から好きだと言えるものがあるのは素晴らしいことだ。それがゲームであろうとなんであろうと素晴らしい。それは誰にも否定する権利はない。ゆえに俺のアイドル趣味も否定されるべきではない。
「アンジェラは精霊って樹神さんから聞いたのだが、精霊同士でゲームで遊んだりしたのか?」
「いいえ、それはなかったわ」
「精霊はあまりゲームで遊ぶ文化なかったのか?」
「たしかに少ないわね。でも遊ぶ子は遊ぶから同好の士みたいなサークル活動はあったわ」
「人とあまり変わらないんだな。アンジェラはそこには参加しなかったのか?」
アンジェラは言葉を詰まらせる。視線を逸らし、「えー」とか「あー」と言い訳を探し回った挙句、最後は悟った目で答えた。
「あたし、友達いないから……」
心臓に悪い静寂が流れる。
「悪い……」
「謝らなくていいわ。よけいに落ち込んじゃうから……」
場が凍りつく。
互いに冷え冷えとした空間を温めようにも全身が凍りつき身動きが取れなくなっていた。
そこに場を溶かした救世主が現れる。
モンスターだ。
ゴブリンを一回り大きくしたようなリーダー格のモンスター。
二人でかかれば雑魚でしかなく、経験値も素材も美味しくない。それでも助かった。
「アンジェラ! モンスターだ!」
「――任せて!」
道中で出会った他のモンスターとの戦闘では互いにそんな掛け声なんてしなかったのに、今はわざとらしく声を掛け合う。終わった話にするために、空気を変えるために、二人して声を掛け合った。
アンジェラと心が一つになった初めて瞬間であった。
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