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4章 我が女神、それは

仕様とは何を切るか考えるもの

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 もはやゲームというものはチュートリアルらしきものはないというのが主流らしい。ゲーム体験の邪魔をせず、必要なときに教えてくれ、忘れた時に尋ねれば再度丁寧に教えてくれる。このゲーム、ブルースフィアもそのような作りで設定完了後、探索者としての旅立ちとして短いイベントを挟んだらすぐに冒険開始だった。

 この広大な箱庭の中で、好きなように動いて触って遊んでねという意図なのだろうがゲーム初心者にとっては何をすべきかもわからず投げ出されているようにも感じられる。遊び慣れた桜庭や妹は「はいはいそういうことね」で好き勝手に冒険するのだろう。

 拠点となる最初の街は、城塞都市である。物々しい城壁に囲われ、中にはレンガ作りの家が並んでいた。青空市場などもあり、サービス開始したばかりとあって多くのプレイヤーで賑わっていた。奥に行けば鍛冶場などもあるらしいが、まだ必要な段階ではないだろう。

 城塞都市から出ると、そこは見渡す限りの大地が広がっていた。広大な草原と街道、鬱蒼とした森、雪化粧が施された連なる山々。そして、果てしなく遠くには天から落ちる巨大な滝。滝を遡った先には天空城があり、滝が落ちる先には海があるという。

 その圧倒的スケールに思わず息を呑んだ。

 先程まで何をすればいいんだと腐っていたが、今では「この世界を空高くから見下ろしたい」に変わっていた。

 俺にとってこのゲームの最終的な目標は配信の予習であるが、その過程で楽しむために寄り道するのもありだろう。

「とりあえず山に登ろう」

 それが俺にとって山登りが遺跡探索やレベル上げよりも訴求力があったこのゲームの売りであった。

 街を出て、走り出す。

 疲れ知らずの身体は軽快で、先へ先へと足が身体を運んでくれる。途中でモンスターとかち合ったりもしたが、簡単に巻けた。

 走りながらあることに気付く。

 他のプレイヤーが見当たらないのだ。

 風景に心囚われていたせいだろう。今にして思えば街を出た直後から他のプレイヤーの姿がとんと見えなくなっていた。もしかするとアンジェラが付近で暴れ、ログアウト指示が出されているのかもしれない。

 山の麓で足を止める。山頂付近は雪化粧を施されているが麓はそんなことはなく、新緑が見られた。

 その場で調べごと始めたのだが、それがいけなかった。

 付近に隠れていたモンスターに襲われたのだ。

 山の麓ということでそのモンスターは街の近くにいるものよりも強く、逃げ辛く、遠距離攻撃まで備えていた。見た目は最弱のゴブリンを緑から白へ色変えしただけなのに、納得のいかない強さを見せつけられた。

 死闘すら演じて貰えず、無残に敗北した俺は最初の街まで強制的に帰還させられた。

 街は変わらず賑わっており、エネミーが出たという話も聞こえてこない。

 街から一歩出るとその喧騒は消え去る。

 また一歩街へ入ると喧騒が戻る。

 どうやらゲームの仕様で街から外に出ると他のプレイヤーと会わないようになるらしい。これは冒険を人の目を気にせず楽しんでほしいからという意図からきた仕様だろうか。たしかに白いゴブリンに殺された山一つとっても他のプレイヤーが山ほどいたらそれは冒険ではなく登山だ。列となって進み、行きと帰りですれ違ったら会釈するような安全な道になる。モンスターが出たところで助け合いという名目でリンチが始まるだろう。

 もっとも馬鹿と煙は高い所が好きという言葉通り俺はただ高い所に登りたかっただけなので、そちらの方が都合が良かった。

 おそらく山頂に近づけば近づくほどモンスターは強くなるだろう。

 ならばまずはレベル上げをしなければならない。

 だが俺はレベル上げという行為が面倒くさくてたまらない人種だ。一人ではモチベーションが上がらず、かといって誰かとパーティを組むという行為もまた嫌いである。知らない人と中身が空っぽな間を持たせるだけの会話なんてしたくないし、できるわけがない。それができるなら灰色の青春を送ったりしていない。

 さてどうするべきか考えていたら、どこか見覚えのある金の御髪を携えた少女が現れる。

「そこの騎士さん。あたしを何処か遠くへ連れ去ってくれませんか?」
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