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7章 偶像崇拝

妹は被害者

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 小一時間も経たないうちに俺の部屋にはいつもの面々が集まっていた。元からいたポンポコリン、堂島さんに西野さんが慌てた様子で飛んできて、樹神さんと北御門が時間通りにやってきた。妹と工藤さんは俺の懇願が通り、今回の話には加わらないことになった。配信すると言っていたから呼んでも来なかったかもしれなかったが。

 彼らの表情は一様に真剣であった。

 ケイオスへの対抗手段である俺が謎の影に苦しんでいると聞き及び、今後の作戦に支障をきたす可能性が高いからだろう。

「そんでその影っちゅーのは、修行場で見たもんと同じであっとる?」

 最初に口を開いたのは樹神さんであった。

「はい、あの腕を模した影でした」

「あの影が出たのは修行場での件以来初やった?」

「……実は今回は三度目です。直前、電脳世界で同じく影の暴走がありました」

 俺は語る。

 AIであった汐見柚子との邂逅。その後にあった影の暴走。アンジェラの声が聞こえ、影が消えたこと。

 目覚めた後のポンポコリンとのやり取り。そこで再度の暴走。

 前者は絶望に身を浸した時、後者は緊張の糸が途切れた時、それぞれ状況は異なるが心に何か変化があった時に暴走は起きていた。

「なるほどなぁ」

 樹神さんはそう言って考え込む。

 北御門が話の区切りがついたことを見計らって訊いてくる。

「身体の具合も悪いって聞いたけど大丈夫? 何か身体に良さそうなもの買ってこようか?」

「今は落ち着いてるから大丈夫だ。吐き切ってもう吐くものすら残ってないから気にしないでいい」

「それ大丈夫やあらへんやろ」

 堂島さんが立ち上がる。

「霊感周りの話は力になれないから俺が適当に買ってくる」

 堂島さんが部屋から出て行った後、西野さんが尋ねる。

「その影って結局なんなんですか? 話によると深層心理にある三刀くんのナニかなのは想像ついたんですけど、そこに神様候補の子まで話に関わってくると素人に毛が生えた程度の私じゃあよくわからなくて」

「安心しい、ウチらもようわからへんから」と肩を竦める樹神さん。

「でもまー前に心覗いた時に小さい穴が空いてたからそれやろなぁ」

「え、それ何か対処したのですよね」

「なんもしてへん」

「いやいや原因わかってるのにどうしてやらないのですか」

「その穴が力の源やとしたらどうする?」

「それは……閉じられたら困りますね」

「空けたのはあの子で間違いないやろうけど、どこまで見越してたかわからへんからその場しのぎでも対処するしかないやろなぁ。今はあの子が心に混ざり込んでるみたいやからそれこそ心に閉じ込めるわけにはいかへんやろうし。……あの子のことやからこの状況まで見越して穴をそのまんまにしたかもしれへんなぁ。戦って死ぬけど存在は心に移しといて、あとはウチが穴に気付いても復活まで穴は閉じないと信じてたからかもなぁ」

 北御門が樹神さんに尋ねる。

「それでもこの影になんの対処もしないのはないですよ」

「せやねん。だから完璧に心をコントロールできるようになるか器を大きくするかやなぁ。一朝一夕でできることやないし、一番手っ取り早いのはアンジェラが目覚めることなんやけどなぁ」 ポンポコリンが手を挙げる。

「アンジェラちゃんを目覚めさせるってそれが前に行ってた当て馬の件ですよねぇ?」

「せやな」

「事情が変わったので協力したいのですがぁ、娘を説得するので少し時間くださいぃ」

 最初は当て馬にするべく要請していたものであったがまさかこのような形で実現することになるとは思わなかった。世間は狭いものであると誰かがいったが、どこで誰が繋がっているのかわからないのは末恐ろしいものである。

 口は災いの元とはこういうことかもしれない。

 どこで誰と誰が繋がっているのかもわからないのだから。

 そう思っていると堂島さんが手提げ袋を片手に戻ってきた。

 その後ろにおずおずとした工藤さん。その手の携帯の画面には、やかましい顔をした妹がいた。

「シオミンが活動休止したせいで久しぶりの配信なのに話題にならなかったんだけど!」

 まさか生みの親が目の前にいるとは思わない妹は災いを口にしやがった。
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