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7章 偶像崇拝
アナーキーだけどいい人
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ポンポコリンは顔を輝かせる。
「え、今なんでもするって――」
「公序良俗に反しない限りはなんでもやってやる。だから言うこと聞け」
「えぇ、なんでやってもらう側なのにそんなに強気なのぉ」
「知ってるか。なんでもやるっていうのは、そちらが応じなければ何をしてでもいうことを聞かせるから穏便に済ませろっていう意味もあるんだ」
「ひえぇ」
我ながら最悪なことを言っている。
「会わせるけどぉ、どうしてそんなに会いたいの?」
ポンポコリンに伝えた。
件のAIが命の恩人であったことを。
聞き終えた頃にはポンポコリンの目頭には輝くものが溜まっていた。
「まさかあの子がそんなことしてたなんて思わなかったですぅ。反抗期かなと思って放置してたらアイドルなんてよくわからないことしてるし、経歴偽造して大手事務所と契約してたりして、戸惑ってたんだけどそんな事情があったんだね」
ポンポコリンは立ち上がり、腰に手を当て胸を張る。
「任せといてぇ。なんとかするからぁ!」
締まりのない語尾に一抹の不安を覚えつつも「頼みます」と頭を下げた。
「あーそれでやって欲しいことなんだけどねぇ」
話題は俺の対価に移る。
「何をやればいいんだ?」
公序良俗に反しないことと限定はしたが、前科持ちゆえモラルに反したことぐらいは覚悟していた。靴を舐めろと言われたら舐めるし、裸踊りしろと言われれば五秒で全裸になるぐらいの覚悟はあった。
だがそんな覚悟が無駄だったと思われることを言われる。
「いーやなんにもないよぉ。しいて言うなら娘のことをよろしくねぇ」
まとも過ぎることに脳がフリーズした。
靴を舐めなくてもいいし、裸踊りしろとも言わない。犯罪まがいのこともしなくてよければ、罵倒の一つすら飛んでこない。そんなことはありえなかった。桜庭なら喜び勇んで命令を下すし、妹ならばお願い風を装って桜庭よりも面倒なことを言い出すだろう。天樹会や政府筋ならば我らがモラルであり法律だと言わんばかりに厄介事に巻き込むだろう。
この人はそれをしなかった。
「本当にいいのですか?」
それが信じられずに再度確認を取る。
「うん、いいよぉ」
シオミンのまともな感性はこの人譲りなのかもしれない、と手のひら返しなことを思ってしまった。
気が抜ける。
安心した。
してしまった。
張り詰めた緊張の糸が解ける。
心から何か漏れ出る感覚を覚える。
それは影から腕という形態で具現を始める。
――不味い。
心を抑える。無を念じ、身体を硬直させ、呼吸だけに意識を傾ける。
とにかく抑え込むイメージをした。
少しずつ腕の輪郭が崩れ、影に沈んでいった。
気を張り詰めたまま、一つ深く息を吐く。
あの影は一体なんなのだろうか。俺の心象風景にあったものと同一のものであろうが、ここ最近現実世界、電脳世界問わずに現れる。それは落ち込んだ時、気を抜いた時、問わず現れた。このままでは生活すらままならなくなる。下手をすると影に殺される日も来るのではないだろうか。
「あのう、あれってなんですかぁ?」
ポンポコリンが尋ねる。
「俺の心の中にある影らしい。詳しいことは知らない」
「それが外に出てくるってマズいのではないです?」
「……すまないが黙っててくれないか」
「駄目ですぅ。みんなに言うこと。これをお願いにします」
そう言われてしまっては反論のしようがなかった。
「妹にだけは言わないでくれないか」
精一杯の抵抗であった。
「え、今なんでもするって――」
「公序良俗に反しない限りはなんでもやってやる。だから言うこと聞け」
「えぇ、なんでやってもらう側なのにそんなに強気なのぉ」
「知ってるか。なんでもやるっていうのは、そちらが応じなければ何をしてでもいうことを聞かせるから穏便に済ませろっていう意味もあるんだ」
「ひえぇ」
我ながら最悪なことを言っている。
「会わせるけどぉ、どうしてそんなに会いたいの?」
ポンポコリンに伝えた。
件のAIが命の恩人であったことを。
聞き終えた頃にはポンポコリンの目頭には輝くものが溜まっていた。
「まさかあの子がそんなことしてたなんて思わなかったですぅ。反抗期かなと思って放置してたらアイドルなんてよくわからないことしてるし、経歴偽造して大手事務所と契約してたりして、戸惑ってたんだけどそんな事情があったんだね」
ポンポコリンは立ち上がり、腰に手を当て胸を張る。
「任せといてぇ。なんとかするからぁ!」
締まりのない語尾に一抹の不安を覚えつつも「頼みます」と頭を下げた。
「あーそれでやって欲しいことなんだけどねぇ」
話題は俺の対価に移る。
「何をやればいいんだ?」
公序良俗に反しないことと限定はしたが、前科持ちゆえモラルに反したことぐらいは覚悟していた。靴を舐めろと言われたら舐めるし、裸踊りしろと言われれば五秒で全裸になるぐらいの覚悟はあった。
だがそんな覚悟が無駄だったと思われることを言われる。
「いーやなんにもないよぉ。しいて言うなら娘のことをよろしくねぇ」
まとも過ぎることに脳がフリーズした。
靴を舐めなくてもいいし、裸踊りしろとも言わない。犯罪まがいのこともしなくてよければ、罵倒の一つすら飛んでこない。そんなことはありえなかった。桜庭なら喜び勇んで命令を下すし、妹ならばお願い風を装って桜庭よりも面倒なことを言い出すだろう。天樹会や政府筋ならば我らがモラルであり法律だと言わんばかりに厄介事に巻き込むだろう。
この人はそれをしなかった。
「本当にいいのですか?」
それが信じられずに再度確認を取る。
「うん、いいよぉ」
シオミンのまともな感性はこの人譲りなのかもしれない、と手のひら返しなことを思ってしまった。
気が抜ける。
安心した。
してしまった。
張り詰めた緊張の糸が解ける。
心から何か漏れ出る感覚を覚える。
それは影から腕という形態で具現を始める。
――不味い。
心を抑える。無を念じ、身体を硬直させ、呼吸だけに意識を傾ける。
とにかく抑え込むイメージをした。
少しずつ腕の輪郭が崩れ、影に沈んでいった。
気を張り詰めたまま、一つ深く息を吐く。
あの影は一体なんなのだろうか。俺の心象風景にあったものと同一のものであろうが、ここ最近現実世界、電脳世界問わずに現れる。それは落ち込んだ時、気を抜いた時、問わず現れた。このままでは生活すらままならなくなる。下手をすると影に殺される日も来るのではないだろうか。
「あのう、あれってなんですかぁ?」
ポンポコリンが尋ねる。
「俺の心の中にある影らしい。詳しいことは知らない」
「それが外に出てくるってマズいのではないです?」
「……すまないが黙っててくれないか」
「駄目ですぅ。みんなに言うこと。これをお願いにします」
そう言われてしまっては反論のしようがなかった。
「妹にだけは言わないでくれないか」
精一杯の抵抗であった。
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