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8章 神と巫女

馬鹿と天才は両立してしまう

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 この現象、アンジェラやケイオスが引き起こしていたものと同じであった。どういう理屈で引き起こせているのか確かめる前にアンジェラが隠れてしまったため、謎のままであった現象であった。それを妹は真似できていた。

「どうやったんだ?」

 両手を前後に素早く動かす妹。

「んー? こうシュバババって感じ!」

 学校の勉強なんぞろくすっぽやらないくせに、こういうところだけは天才肌なのだ。アバターモデル作成も独学でやれているし、間違いなく凡人とは一線を画す天才なのだろう。だから困る。凡人ではおよそ辿り着けないことを感性だけで簡単にできてしまう。

「さー! 逃さないから私の方を愛してるって言って!」

 それを至極どうでもいいことに使うあたり、理性が飛んでいるとしか思えない。できれば電子ドラッグでハイになっているからだと思い込みたい。

「はいはい、どっちも大切だからさっさとこれを解け」

「そんなありきたりな答えじゃ解きまっせーん!」とそっぽ向く。

 そこに重ねて「まっせーん」と合いの手を入れる汐見。

 普段より面倒であった。

 このまま理性を取り戻すまで無視を決め込んでウザ絡みされ続けるか、呼び出した工藤さんもろとも自爆するかどちらにしようか悩む。工藤さんは二人の相手で疲れ切ったのか部屋の隅に避難していた。

 秤が工藤さんを巻き込む方へ傾いた折、汐見に袖を引っ張られる。

「せっかくハッピーな気分だから普段できない話しない?」

 そう言った汐見の目には「まっせーん」などと合いの手を入れた理性の欠片もないパリピの色は消えて、ここぞとばかりに責め立てる知将の鋭さがあった。

「俺はハッピーな気分じゃないからしないぞ」

 先手を打つ。

 喋らないと牽制をしたつもりであったが、汐見は「話したくないなら仕方ないね」とすぐに受け入れた。どうやらターゲットは俺ではないらしい。

「でーもー! マイマイは話してくれるよね?」

 身体を起こし、妹の肩を揺らす。

「えーどうしよっかなぁ」

 妹は寝転がったまま体をくねくねと動かす。

「ていうか何話せばいいのかわかんなーい!」

 にっこりと笑う汐見。その笑みは罠にかかった獲物を見る狩人がするものであった。

「それじゃあ汐見、前々からマイマイに聞きたいことがあったんだ」

「えーなになにー?」

 出れないとわかって諦めてその場に胡坐をかく俺の足に足を乗せる妹。その動きは俺が座ると同時に行われ、かつあまりにも自然で、加えて当然といった面持ちで行われたため、それから逃げるタイミングを逃してしまう。

「マイマイはどうしてアイドル目指したの?」

「えー話すと長くなっちゃうからなー!」

 そんなことを聞くぐらいなら寝てしまいたい。ログアウトも封じられ、足の上に妹が陣取り、電脳世界ゆえ足が痺れたという言い訳もできない。

「お兄さんも聞きたいですよね?」

 汐見が俺に視線を向ける。同意を求める視線だ。

 イエスしか求めていないそれにどう返すか躊躇する。

 すると「ね?」とお代わりが飛んできた。

「ああ、そうだな」

 翌朝にこの眠気を持ち込む所存で我が女神に同意した。
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