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8章 神と巫女

天才に理屈を求めてはいけない

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「そこまで言われたら仕方ないですなー!」

 妹はふにゃふにゃな笑顔で同意した。

 それからふにゃふにゃな言語中枢でヘロヘロになった語彙力を駆使し、過去を語った。理解が難しい新言語も飛び出したりしたが、整理するとこういうことだった。

 妹が小学生の頃に入院した頃まで遡る。

 交通事故に遭う前、妹はやはり俺を怖がっていたらしい。毎日傷作って帰ってくるわ、いつも眉間に皺を作っているわ、両親とまともに談笑してるとこ見たことないわ、で恐ろしい同居人としか思えなかったらしい。そんなある日、あまりにも暇が過ぎて、背に腹は代えられないと俺と二人で出掛けることに同意した。

 出掛けた当初はおっかなびっくりであったものの、すぐに慣れて、恐ろしい同居人が恐ろしいけど無害な同居人に認識が変わった。慣れたらこちらのもんだとばかりに帰路ではしゃいでいたら交通事故に遭った。

 本来妹が轢かれるはずだったのに俺が身代わりになった。なのに怪我をしたのは轢かれた俺ではなく、轢かれなかった妹の方だった。このタイミングで妹は「ここは笑うとこだよ」とどういう顔をすればいいかわからず困っていた汐見と工藤さんに言っていた。

 その後、入院した妹は両親にヘッドマウントディスプレイを与えられた。寂しい時はこれで時間を潰せという名目であった。当の妹はそれが両親だと思い出せず、誰かから与えられたものとだけ記憶していた。

 最初は新品が与えられたと思って喜んだが、使ってみると誰かが使用していた跡があった。少しばかり喜びは引っ込んだが、それはそれとしてどう使ったのか気になるのが人情である。カラオケで前にいた人がどんな歌を熱唱していたのか気になるのと同じである。

 願わくばエロに連なるナニかを。

 ませていた妹はそう思って探したそうだ。

 幸い、購入してから日は浅く、そういうことを考えられる精神状態ではなかったため、桃色動画に連なる痕跡は残していなかった。あったのは世界各地の名所を巡った跡とデバイスに紐付けられた量産型アバターだけだった。そのアバターには俺の名義で入場料がかかる電脳への支払い履歴が残っていたことで、俺のお下がりだと妹は理解したらしい。

 潔癖な履歴に安心とともにつまらなさを感じた妹であったが「いやこれは巧妙に隠されているに違いない!」と怪我人の癖に奮起した。

 そして見つけた。

 とあるストリートの電脳に連日通っていたことを。

 それまでは連日世界の名所を回っていたのに、突然観光地巡りは鳴りを潜め、そこへ足繁く通うようになった。これは何かあるに違いないと推理する。

 俺のアバターを拝借し、ストリートの電脳へ飛び込んだ。

 雑多な街には沢山の喧騒が溢れていた。

 その中で妹が一番気になったもの、それは連日路上ライブをしていた新人アイドルであった。そのアイドルは偶然、俺がストリートを訪れた日から休まず路上ライブを開催していたらしい。そこで妹は俺がこのアイドルの追っかけなのだろうと結論付けた。

 盛大な勘違いである。

 そんな勘違いをしたまま妹は突っ走ることになる。

 俺と仲良くなりたいと画策した妹は何を思ったのかアイドルを目指そうと決意した。

 どうしてその結論に至ったのか問うてみた。

「好きなものに家族がなったとしたら興味持ってくれるじゃん」と素朴な理由で突飛な行動に出たとのことだった。ただでさえトロトロに溶けた頭ゆえ、理由と行動の間には何か語られなかったことがあるのかもしれないと思う奴もいるだろう。だが兄故にわかる。こいつは素朴な理由で突飛な行動に出る奴なのだ。
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