ほんわか騎士団首都日誌 ~無自覚美少年と筋肉幼馴染のすれ違いな日常~

kei

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再会の光の夜

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舞踏会の喧騒が徐々に静まり、人々の視線は、抱き合う二人の青年に釘づけになっていた。

誰もが息を呑み、何も言えずにいる中――
ただ、二人の心臓の鼓動だけが確かに響いていた。

***

「……ルシェファン、少し外へ出よう」

掠れた声でそう言ったシェガランの手が、そっとルシェファンの頬を撫でた。

涙で濡れた頬に触れたその指は、温かく、あの日の夢の中のように優しかった。

ルシェファンは何も言わずに頷き、シェガランの手を取って歩き出す。

周囲の視線の中、二人は静かに広間を後にした。
――誰も、止めなかった。
それが、彼らの“答え”であることを、誰もが理解していたから。

***

夜風が頬を撫でる。
城のバルコニー。
眼下には光の街、遠くには凍る湖面が月光を映していた。

「……無理して来たんじゃないの?」
ルシェファンが問うと、シェガランは小さく笑って肩をすくめた。

「まぁ、少しな。でも……お前の声が、聞こえた気がしてな」

「……僕の声?」

「ああ。『遅いよ』って。いつもの、お前の言い方でさ」

ルシェファンは息を詰めた。
涙がまた滲み、思わず笑いながら頬を拭う。

「……本当に、もう。どこまで僕を泣かせれば気が済むの」
「泣いてくれるうちは、俺はまだここにいていいってことだ」
「……ずるい……」

シェガランはその言葉に少しだけ微笑み、彼の金の髪を指に絡めた。
「ずるくてもいい。もう離さない」

ルシェファンの頬が赤く染まる。
それでも、逃げなかった。
彼の胸にそっと寄り添いながら、静かに目を閉じた。

「……新年会、来てくれてありがとう」
「来るさ。お前の母上からの招待状、断れるわけないだろ」
「母上……シェガランのために衣装を作ったって」
「――知ってる。届いたよ。道中で、命の恩人に修繕してもらってな」

「え?」

「破れてたからさ。……ほら」

シェガランは懐から小さな刺繍布を取り出した。
淡い羽根の模様。
それは、ルシェファンの衣装と対になる文様だった。

「お前の母上が、『これを纏えば帰ってこられる』って」

ルシェファンの瞳に、再び涙が光る。
「母上……そう言ってたの……」

シェガランはその涙を拭い、額をそっと寄せる。
「俺は帰ってきた。お前が待ってる場所に」
「……うん」
「だからもう――泣くな」

静かな口づけが、夜気の中で重なる。
短く、けれど確かな誓いのように。

***

その頃、少し離れたテラスで――
エルランティアとグレファードが月を見上げていた。

「ようやく、あの子たちも一歩進んだようね」
エルランティアが穏やかに笑うと、
グレファードは肩を竦めて杯を掲げた。

「まったく。似た者同士だ、あの二人は」
「ええ。けれど……あの子の“刺繍”は、まだ未完成よ」
「未完成?」
「“永遠の絆”の糸――あれは、二人が共に針を持たなければ完成しないの」

グレファードは小さく笑い、妻の手を取った。
「……お前も、ずいぶんと策士だな」
「母ですもの」

月明かりの下、ふたりは静かに杯を合わせた。
その先に、微笑み合う二人の息子たちの姿があった。

***

夜が更け、雪が静かに降り始める。

ルシェファンはシェガランの肩にもたれながら、ゆっくりと目を閉じた。

「ねぇ、シェガラン……」
「ん?」
「来年も、同じ景色を見ようね」
「……ああ。約束だ」

手と手が触れ合い、指先が絡まる。

白い息が溶け合い、
静かに、夜は明けていった。

――新たな年、ふたりの誓いの年が始まる。
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