聖獣キアルラ、本日も主が規格外です

kei

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猫(聖獣)、違和感を覚える

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 目が覚めた。

 ……早すぎる。

(人間界の朝、こんなに明るかったか?)

 いや、違う。
 これは――魔力の流れが整いすぎている。

 私はゆっくりと目を開けた。

 天井。
 清潔な部屋。
 昨夜、包帯を巻かれ、布の上に置かれたまま眠った場所だ。

(……生きてるな)

 痛みは、ある。
 だが、致命的ではない。
 むしろ――

(回復、早くないか?)

 包帯をそっと確かめる。
 締め付けはない。
 だが、魔力の流れを妨げない巻き方をしている。

(……偶然、にしては出来すぎだ)

 その時。

 かすかな音。

 ――布が擦れる音。
 呼吸。
 そして、刺繍糸が布を抜ける、規則正しい音。

 私は首だけ動かして、視線を向けた。

 そこに、アリセルネがいた。

 昨日と同じ淡いドレス。
 椅子に座り、背筋を伸ばし、刺繍枠を持ったまま、ほとんど動かずに作業している。

 ……本当に、動かない。

(……石像か?)

 いや、違う。
 目はちゃんと布を追っているし、指も動いている。

 ただ、それ以外が一切、動かない。

(人間って、ここまで省エネできたか?)

 私が起きたことに、気づいていない――
 そう思った瞬間。

 彼女の針が、止まった。

 そして、こちらを見た。

(……気づいてたのか)

 数秒、沈黙。

 アリーは刺繍枠を置き、立ち上がると、ゆっくりこちらに近づいた。

 足音が、ほとんどしない。

(忍び足が上手い令嬢って、何だよ)

 彼女は私の前にしゃがみ込み、私の顔・脇腹の包帯を見て、ほんの少しだけ眉を寄せた。

「……いたい?」

 昨日と同じ言葉。
 同じ調子。

 私は一瞬、どう答えるべきか迷った。

(正直に言えば、だいぶマシだが……
 聖獣としては、弱っている姿を――)

 考え終わる前に、喉から声が出た。

「……にゃ」

(しまった)

 アリーは小さく頷いた。

 そして、何も言わずに立ち上がり、部屋の隅へ向かう。

(……?)

 少しして戻ってきた彼女の手には、2つの小皿。

 ――温められたミルク。
 そして、昨日より少し柔らかく煮た肉。

(……調整、入ってるな?)

 偶然か?
 昨日食べにくそうにしていたのを、覚えていたのか?

 彼女は床に布を敷き、皿を置き、
 私が動きやすい位置に、正確に配置した。

(……何だこの気遣い)

 しかも、見ていないふりをして、 ちゃんと、視界の端で私を捉えている。

(圧がないのに、逃げ場がない)

 私は、ゆっくりと体を起こし、食べ始めた。

 アリーは、食べている間、一切話しかけない。
 視線も、基本は外している。

 ……だが。

(……全部、把握してる)

 食べる速度。
 噛みづらそうな箇所。
 皿がずれた瞬間。

 そのたびに、ほんの数ミリ単位で、布や皿の位置が修正される。

(……世話、うますぎだろ)

 食べ終わると、アリーは小さく息を吐き、私の包帯を、そっと撫でるように確認した。

 魔力が、ほんの一瞬、流れた。

 治癒ではない。
 負担の有無の確認だけ。

(……そんな高度な!確認だけで済ませるとか、何者だ)

 彼女は満足したのか、頷いた。

 そして、ぽつり。

「……きょうは……むり、しない」

 命令ではない。
 お願いでもない。

 事実確認のような口調。

(……ああ、ダメだ)

 私は、この時、はっきり理解した。

(この人間、放っておくと危ういどころじゃない)

 危ういのは――
 周囲が、際限なく世話を焼きたくなるタイプだ。

 私は、ゆっくりと丸くなる。

(……恩返し、長引きそうだな)

 胃が、きりっと痛んだ。
 昨日より、はっきりと。

(ああもう……
 なんで拾ったのが、このタイプなんだ……)

 その日。
 私は初めて――
 「主」という言葉を、現実的に考え始めていた。
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