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ギム・ティ王国で…

3-2 模擬戦

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「シン様!どうですか!私もたまにはお役に立てますでしょ?!」
「...」
「本当に、素晴らしい!アンコウ様とおっしゃいましたか?まさか登録飛び級でSSランクになった方はあなたが初めてです!」
「黙れ人間、貴様ら下等生物ごときに褒められたところでっ?!...痛いですぅ~」

冒険者登録をしようとアンコウに手続きさせたところ、飛び級でSSランクになってしまい、冒険者協会の偉い方に呼び出されていた。
今も二人の目の前で協会の男はペラペラと話を続けている。小声でアンコウのみに聞こえるように話しかける。

「あー、あの時首を貰っときゃ良かった...」
「何故ですか!シン様が言うと洒落になりません!脅しですよ、脅し!」
「こんな方法で強さ示しても後々英雄ヒーローとかって称えられるのがオチなんだよ...」
「しかし何故そこまで悪にこだわるのです?」
「悪が一番楽だからに決まっているだろうが、それに俺は邪神だぞ、邪神。」
「たしかにシン様を人間ごときと同じ考えで見ておりました。お許し下さい!」
「分かればいいんだ、分かれば。それで、お前力を抑えられねーのか?」
「これでも《人化》しているので力を失っている方です。」

「具体的にはどれくらい?」

「70%程でしょうか...」

「やっぱ、使えねーなお前。」
「これから頑張りますから!何卒お許し下さい!」

これではまるで小さい子供を虐めている気分なので許すことにした。

◆◇◆

一時間後に冒険者協会が管理している闘技場で彼女達《薔薇の狩猟者ローズハンター》は駆け出し冒険者のシンという男と模擬戦闘を行うため、移動の最中だった。その中で金髪ストレートロングのエリスの後ろに付いている一人の少女が何やら話しかけている。

「だんちょー、その駆け出し君のどこに惚れちゃったのかにゃ~?」

彼女は人間とは明らかに違う所がある、まず猫の様な耳、そしてサワサワと風に当たりながらなびいている毛の生えた尻尾だ、顔にはまだ子供っぽいあどけなさが残っている。

「レイシェル、あんま構ってやるなよ、ウチらの団長ギルドマスターもお年頃って奴だ...フフフ」

レイシェルと呼ばれた獣人の娘に話しかけたのは茶髪のショートボブの女性、エリスとあまり年齢差は感じられない。

「お前もな、タリア。あんまエリスをいじるな、ほれみろ足がおぼつかなくなってんじゃねーか。」

エリスを見ると確かに酔っ払いの様にあっちへこっちへとフラフラと歩いている。

「だんちょー、可~愛い~♪」
「ところでお前ら、今日の相手のことはエリスから聞いたのか?」
「勿論、聞いてるよ~。昨日冒険者になった格闘家モンクの駆け出し君でしょ~。余裕っしょ、余裕。」
「まあ、確かに、でも駆け出しと私達が模擬戦なんてちょっと驚いたけどね。」
「今回の模擬戦は新人の戦闘訓練も兼ねて...って言ったから協会もOKを出したが、本来なら止められてるだろうな。」

間もなくして闘技場が見えてきた、広さは45000平方メートルあるといわれている巨大な建造物だ。普段は特に使われることはないが今日の様な模擬戦や協会が時々運営する冒険者同士のトーナメント戦等々様々な用途に使用される。
闘技場の中に入ると大きなスペースを取り囲むように観客席が設置されている。その中心には見覚えのある二人が立っていた。

「遅くなって申し訳ない。」
「はぇぇえ...言ってた通りイケメンだぁ~」
「こりゃ、惚れるわ」
「むぅ...」

エリスが頬を膨らませながらタリアをじっと見つめる。

「安心しろ、とらねーよ。」
「...」
「...まだ」
「?!」

黒髪の男性が手を振りながら応えた。

「いえいえ、時間ぴったりですよ。」
「シン様を待たせるとはなんという狼ぜっ?!...痛いですぅ~」
「アンコウちゃんは冒険者登録終わったの?」
「聞いて驚きなさい、人間!なんと私は飛び級でSSランクになったのよ!」

「えぇ?!」
「マジかよ!」

エリスを除いた後ろの三人が有り得ない真実を耳にしてそれに見合った反応をしている。

「そちらのお二人は?」
「私の仲間、こっちのモフモフしたのがレイシェル、獣人。こっちの栗がタリア。」
「宜しくお願いしま~す」
「おい、栗ってなんだ!」
「ちなみに職業は私が聖騎士、愛用武器がこのランスシールド。」
「俺の職業は戦士ウォリアーだ、コレが普段使ってるアックスな。」
「私は獣使いビーストテイマーだよ!召喚サモンしても呼べるけど普段は違う子たちを使役してる!私自身はこの短剣を使うよ!」
「私は魔導師ソーサラーだ。武器は勿論ワンド。まあ、宜しく色男さん。」

全員プロを漂わせる素晴らしい装飾を施した武器を見せながら説明した。

「俺はシンです。職業は見たまんま格闘家モンクです。」
「私の名はアンコウ!シン様にお仕えする忠実なる下僕であり、ペットよ!職業は召喚師サモナー!」

「言ってた通り変わった子だな...」
「だろ?」

「それじゃ、早速始めよ。」
「そうですね。」
「始めの合図はどうします?」
「ではこのコインを投げて地面についたらスタートという事で。」
「良いわ。」
「じゃあいきますよ。」

コインははじきとばされると真の手を離れ、空中へ飛んでいく、その間に相互一斉に後ろに飛び、ある程度距離を置いた。

「あなた達はアンコウ、私はシン。」
「ほっほー、独り占めですか。隅に置けませんなぁ...」
「独占欲高めね、団長。」
「まあ、やりたいようにやらせてやれ。」

「アンコウ、手筈通りお前が眷属と一緒にあの三人を、俺はエリスだ。それと、ハッスルしすぎるな、力を抑えてな。」
「お任せ下さい、必ずやシン様のお役に立ちます!」
「おれは、《2倍》ぐらいで良いか...」

コインが地面に着くと、それぞれ左右に分かれていく。シンのグローブとエリスのランスがぶつかり合う。

「どうやら、考えていた事は同じみたいですね...」
「お、同じ...」

何故かエリスの顔が赤いが、力を込めているからだろうか、と考えていると力を込めていた拳が空振るような感覚を覚え、咄嗟に前ではなく横に飛ぶ。横にそれたおかげでエリスの追撃を免れる事ができた。

「良い判断、感心。それに、駆け出しにしては強い、恐らくDランクの仕事ならば直ぐにこなせる。」
「ありがとうございます。」

「《召喚サモン超位魔法!蜥蜴人の軍勢リザードマン・アーミー!》蜥蜴人リザードマン達よ、我と我が主のために奴らを攻撃しろ!」

巨大な魔法陣の中から姿を見せたのは様々な武器や強固な甲冑を身にまとった黒い蜥蜴人リザードマン達、一匹一匹が通常の蜥蜴人リザードマンより硬そうな筋肉を見せている。

「おいおい、その歳でもう超位級魔法だと?!」
「しかも、この蜥蜴人リザードマン達かなりLv高いよ!恐らくLv500前半!私でもここまで強いのを一気にこんなに召喚サモンできないよ!」
「だったら本体を叩きゃ良いだろうが!」

そう言ってラキシードは走り出すと、射程距離内に入りアックスを上から思いっきり振り下ろす。しかし、コレを容易く受け止められた。

「なっ?!日傘だと?!」
「有り得ないでしょ!日傘でラキシードの一撃を止めるなんて!それも十代前半の召喚師サモナーが!」

召喚師サモナーというのは魔術師系職業の一種で、通常魔法職に就いている者達は腕っ節に自信がない者達が代わりに魔術という身体を張らない方法で戦闘をすすんでやるというのが普通だ、それに魔術師は身体を鍛える時間があれば魔法の勉強に費やすし、ラキシードの様な戦士職の者達であれば時間があれば身体を鍛えるというものなので、普段から鍛えた戦士職、ましてSSランクの冒険者の一撃を受けることなどでは有り得ない。
ラキシードが目の前に起きた事実が信じれず表情を強ばらせるとそれを見たアンコウが笑いながら話す。

「あら?そんなに、驚きかしら?」
「参ったな、こりゃ明らかな差があるぜ。」
「降伏にはまだ早いわぁ、高貴な私が折角呼び出した蜥蜴人リザードマン達も相手にしてあげてよ。」

アンコウが呼び出した蜥蜴人リザードマンの数はおおよそ五十体、一般の野生の者達ならばラキシード達からすれば苦にはならない程度だ。しかしそれもLvが500ともなると戦況は変わってくる。

「私達どうやらとんでもない奴と模擬戦やってるみたいね。」
「駆け出しじゃないの~?話と違う~!」

「フフフ...これで、シン様に褒めてもらえるかしら...」
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