金曜日の少年~「仕方ないよね。僕は、オメガなんだもの」虐げられた駿は、わがまま御曹司アルファの伊織に振り回されるうちに変わってゆく~

大波小波

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 駿の喜びの声に、伊織もまんざらではないようだ。
「うん、私の従者らしくなったな」
 そう言って、ニコニコと笑みを浮かべている。
 そして、思い出したように両手を合わせて鳴らした。
「そうだ。君に見せたいものがある」
「何でしょう」
 とても、良いものだ。
 ぜひ、駿に見せたいと思っていたのだ。
 そんな伊織にいざなわれ、駿は広い庭園へ降りた。
 美しい錦鯉が泳ぐ池に沿って少し歩くと、見事な紅葉に色づいた庭木が見えてきた。
「綺麗だな……」
 幻想的ですらある光景に、目を奪われていた駿は、伊織の弾んだ声で我に返った。
「駿、私がイメージしていた菊は、これだ」
 そこには、見事な大輪の菊が所狭しと並んでいた。
 黄、白、紫、様々な色に、花弁の形も異なった大菊だ。
 そして、豪華絢爛な菊人形もあった。
 繊細な彫りの日本人形を、菊の花や葉が衣装として彩っている。
「……」
「どうした。感想は?」
「……驚いて、声も出ません」
「そうか。駿は、こういった菊を見るのは、初めてか」
 伊織は嬉しそうに、すぐさま野点の準備をさせた。
「菊を愛でながら、外で味わう茶はいかがかな?」
「美味しいです……」
 高くて青い、秋の空。
 もう冷たくなってきた風が、頬を撫でる。
 駿は、気が遠くなる心地を覚えた。
 ああ、これは夢なんじゃないかな。
 僕は眠って、別世界を見ているんだ。
 起きるとそこは、冷たい床の上なんだ。
 朦朧としている駿に、伊織は少し心配になった。
「何、考えてる?」
「これは、夢じゃないかな、って」
 すると伊織は、愉快そうに笑って、駿の頬をつねった。
「痛い!」
「安心しろ。天宮司 伊織の創る世界に、夢はありえない」
 全て、現実のものだ、と伊織は誇らしげに言った。


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