金曜日の少年~「仕方ないよね。僕は、オメガなんだもの」虐げられた駿は、わがまま御曹司アルファの伊織に振り回されるうちに変わってゆく~

大波小波

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「私が学習している間、何かあっただろう」
「大人の人が大勢やって来て。お医者さんに、健康診断までされました」
 うん、と軽くうなずき、伊織は出されたカップを手にした。
「仮にも、天宮司家の次期当主が傍に置く従者だ。服装や健康状態が良くなくては、沽券にかかわる」
「すみません……」
 駿は、自分の足元を見ていた。
 豪奢で美しいカーペットの上にあるのは、擦り切れて穴の開いたスニーカーだ。
 恥ずかしい。
 だけど、駿にはどうすることもできないのだ。
 そこへ、先ほどの大人たちが、ぞろぞろとやって来た。
 皆、手に手に包みを持っている。
「伊織さま、お仕立てが上がりました」
「ご苦労」
 そしてその包みは、全て駿の席へと運ばれてくる。
「開けたまえ、駿。全て、君のものだ」
「えっ?」
 恐る恐る包みを開くと、中からは真新しい制服や革靴が出て来た。
「これが、僕のもの!?」
 そんな!
 オーダーメイドに払うお金なんて、逆さに振っても出て来ないのに!
 青くなって、口をパクパクさせる駿に、伊織が微笑んだ。
「まぁ。私から駿への、ちょっとしたプレゼントだ」
「あ、ありがとうございます……」
(いいのかな。こんな、高価な贈り物を受け取っちゃっても)
 ためらう様子の駿に、伊織は微笑んだまま急かしてきた。
「早く身につけてみたまえ」
「じゃ、じゃあ。お言葉に甘えて!」
 駿は、広いティールームの端に向かって駆けた。
 大きな彫刻の陰に隠れて、衣服を脱いだ。
 包みの中には、肌着まで用意してある。
 駿は感激しながら制服を着て、靴を履いた。
 そして。
「ぴったりです!」
 部屋中に響くような声で、駿は叫んでいた。

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