二つの顔を持つ二人 ~イケメン俳優×カフェの少年~ 彼の前でなら本当の自分を見せられる

大波小波

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1話 意地と誇りと

『郁実』

 優しい声がする。
 懐かしい、この声は……。

「父さん」
『郁実、こんな所で何をしてるんだ?』
「え? 何って」

 僕は、カフェでの仕事を終えて。
 それから自転車で、どこかへ行こうとしていて……。

「父さん、ここはどこ?」
『お前は、まだ来ちゃいけないところだ』

 帰りなさい、と父は郁実の肩を、とん、と後ろに押した。
 すうっと、吸い込まれるように体が落ちていく。
「父さん!」
 腕を伸ばしても、もう父には届かなかった。

 郁実が交通事故に遭ってから、三日が過ぎていた。
「まだ意識が戻らないのか……」
 病院の廊下には、颯真の姿がある。
 ICUで治療を続けている郁実を、毎日見舞っているのだ。
 しかし、一向に病室が変わる気配は、なかった。

 郁実の事故現場に居合わせた佐藤が、すぐに他のスタッフにも連絡した。
 年配のバリスタ・久野だけが、郁実と颯真が同棲していることを、知っている。
 そこで、久野から颯真へ連絡があった、という流れだった。
 全てを放り出して、病院へ駆けつけた颯真は、医師から説明を受けた。

『頭部からの出血があったが、幸い神経を傷つけるような怪我ではない』

 簡潔に言えば、このような内容だった。
 
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