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しおりを挟む退職願を提出してからの一ヶ月間、章は忙しかった。
仕事の引継ぎをしながら、転居先を探す。
自動車学校に通い、新車を検討し、家具を選ぶ。
忙しかったが、苦痛ではない。
全てが新しく、鮮やかに塗り替えられるのだから。
そして一ヶ月は瞬く間に過ぎ去り、章はめでたく新居の畳の上に寝転がっていた。
まだ青い、良い香りのする、畳。
購入したのは中古物件だが、和室の畳は新調したのだ。
メインストリートから、道一本山寄りに入った住宅地の一戸建てを、章は選んだ。
駐車スペースは充分あるし、庭も広い。
家具を入れ、羽毛布団を揃え、キッチンを整え、バスルームをデザインした。
「後は……」
寝返りを打って、章はつぶやいた。
「誰か、隣に。傍にいてくれる人がいれば、いいな……」
恋人が欲しい欲しいと、がつがつしているわけではない。
そこまで飢えては、いない。
ただ、章はこのところ人恋しかった。
両親も、兄弟も、親戚すらいない、施設育ちの章。
そっと寄り添い、時を分かち合ってくれる誰かが、欲しかった。
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