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しおりを挟む不自然な志乃に、気づかなかった章ではなかった。
だが、追及はしなかった。
(志乃くんには何か、話したくない事情があるんだろう)
そう考えて、わざと明るい声を上げた。
「果物が好きなら、今日はブドウ狩りにでも行こうか?」
「いいの!?」
「車の運転、ずいぶん上達したんだ。隣に、志乃くんを乗せたいな」
「嬉しい!」
郊外の果樹園まで、ドライブだ。
章はさっそくスマホを使って、予約状況を確認した。
「今からでも、大丈夫だ、って」
「じゃあ、行こう!」
二人で駐車場へ入ると、そこには章の新車が待っていた。
国産だが、世界にも進出している、有名な大手自動車メーカーの車だ。
このたびフルモデルチェンジした、話題の車種だった。
「すごい! ピカピカ!」
「さあ、乗って」
ナビシートに滑り込むと、志乃の鼻を新しい香りがくすぐった。
「章さん。これ、新車?」
「うん。買ったばかりなんだ」
だから、隣に誰かを乗せるのも初めて。
そんな章の言葉に、志乃は嬉しくなった。
「光栄だな。僕が、第一号だなんて」
「私も嬉しいよ。志乃くんが乗ってくれて」
「じゃあ、発進!」
「OK!」
二人を乗せた新車は、楽しい時間へ向かって滑るように走り始めた。
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