52 / 152
2
しおりを挟む「弟さんや、妹さんは?」
「親戚が預かってくれてる。まだ小さいから、よく懐いてうまくいってるみたい」
だが、無償で、というわけにはいかない。
志乃は、弟妹達が肩身の狭い思いをしたり、苛められたりしないようにと、生活費を仕送りしていた。
伯父や伯母は志乃の苦しい経済状態を知りながらも、その金はきちんと受け取っている。
いずれ彼らの学費のためにと、積み立ててくれているのだ。
しかし、さすがにそれが、文字通り志乃が体を張って稼いでいる金とは、知らなかった。
(何てことだ)
章は、握った志乃の手を、もう片方の手で撫でた。
か弱い志乃が、想像を絶する過酷な状況で、必死に働いていたのだ。
(それを。私は、つい浮かれてしまって)
好きだ、との言葉は、もう引っ込みがつかない。
ただのラッキーな成金の私を、彼は受け入れてくれるだろうか……?
「ね、章さん。お願いがあります」
「何かな。何でも、言って」
「僕の足が治ったら、ここで働かせて。僕、ね。家事は得意なんだよ?」
うつむいたまま、涙をぽろぽろこぼしながら、志乃は必死だった。
「おばあちゃんが認知症になってから、家事はほとんど僕がやってたから、身に付いちゃった」
だから。
「だから、章さんの身の回りのお世話で、お給料をもらえたらいいな、って」
そんな志乃の健気な言葉に、章は彼を抱きしめていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
29
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる