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しおりを挟む手のひらサイズの、無垢材で作った動物たち。
木の香りが志乃の鼻をくすぐり、とても心地いい。
「うわぁ。ネコに、イヌ。クマに、ウサギに、カエルに、ブタさん!」
可愛い、と歓声を上げた後、志乃は章に向き合った。
「これ全部、章さんが作ったの?」
「うん。まぁ」
「すごい! ね、触ってもいい?」
「いいよ」
志乃は、そっと木彫りのネコを取り上げ、手の上に乗せた。
まるで、本物のネコにするように、その背を優しく撫でた。
「すごく素敵」
「ありがとう」
でもね、と章は苦笑いだ。
「全然、売れないんだ」
一生遊んで暮らせるだけの大金は手にしたものの、ぱあっと遊びに使うような気性の章ではない。
会社勤めはもうこりごりだが、生活にメリハリをつけるためにと始めたのが、この木彫りだった。
「ネットに出品して、買い手を待ってみたんだ。その方が、やりがいがあると思って」
趣味で、ただ漫然と作るより、何らかの形で評価された方が、励みになる。
そう考えて売り出してみたものの、全く売れる気配がない。
「だから、志乃くんに彩色をお願いしたくて」
「いいの!?」
うん、と章は笑顔でうなずいた。
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