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しおりを挟む「僕を、どうする気?」
志乃は郷に連れ込まれたマンションのソファに、座らされていた。
その前に立ちはだかる、郷の出方を待った。
志乃を誘拐した男たちの姿は、もう無い。
二人きりで、向き合っていた。
気の立ったネコのように睨みつけてくる志乃の視線を受け流し、郷は鼻で笑った。
「さっきも言っただろう? 君はずっと、ここで幸せに暮らすんだよ」
「嫌だ! あなたと一緒にいても、幸せになんかなれないよ!」
「勘違いしてもらっては、困るな。誰が、一緒に暮らす、と?」
「えっ」
「志乃は、私の愛人の一人になるんだ」
そう宣言した後、郷は一転して志乃を突き放した。
「うぬぼれるな。レンタル恋人の分際で」
「ぼ、僕は。もう、そのお仕事辞めたし!」
「だが、相変わらず、お金は大好きだろう?」
そんな郷は、志乃に一ヶ月につき100万円を渡す、と言った。
「時々、会いに来てやる。せいぜいその美しい体を磨き上げて、待っているんだな」
「お金なんか、いらない! 僕を、放して! 自由にして!」
「おっと。もう、こんな時間だ。ニューイヤー・パーティーに、遅れてしまう」
しまいには、かみ合わない返事を志乃に寄こし、郷はさっさと部屋から出て行ってしまった。
「ちょっと、待ってよ! お願い、ここから出して!」
志乃は玄関のドアを押したり引いたりして頑張ったが、ロックが掛けられびくともしない。
へたりとその場に座り込み、つぶやくしかなかった。
「章さん……」
その名は、志乃に勇気を与えた。
彼は上を向き、ここから出る方法を考え始めた。
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