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しおりを挟む家族みんなで、食卓を囲む。
こんな日が、私に訪れるなんて。
料理と一緒に幸せを噛みしめていた章に、志乃がミニトマトをつまんで差し出した。
「はい、章さん。あ~ん」
「な、何? いきなり」
にんまりと笑顔を作って、志乃は懐かしい思い出を家族に披露した。
「章さんってね。デートの時に、自分で作ったミニトマト持ってきたんだよ」
「ええっ?」
「それ、ホント!?」
「あなたたち、本当に妙なカップルねぇ」
こんな時に、そんな風に暴露しなくても、と章は照れたが、志乃は嬉しそうだ。
「でもね。そんな章さんだから、僕は好きになったんだと思う」
頬を染め、見つめ合う章と志乃に、母はわざと歌うように言った。
「あぁ、はいはい。お二人さんは、いつもいつまでもラブラブねぇ」
私はお腹が空いたから、お先にいただきます。
フォークを手にした母に、志乃はストップをかけた。
「待って、お母さん。明日、病院について来てくれないかな」
「え?」
変だな、と感じたのは、章も同じだった。
「志乃くん。腎臓の検査は、来月じゃなかったっけ?」
「えっと、ね。検査は、腎臓じゃなくって、ね。……産科」
「え!?」
「僕、赤ちゃんができた、かも」
「やったあぁああ!」
章は、両腕を伸ばして天を突いた。
志乃を抱き寄せ、何度も頬にキスをした。
「おめでとう、志乃お兄ちゃん!」
「志乃兄ちゃん、早く赤ちゃん見せて!」
「あなたたち、少し気が早いわよ。落ち着きなさい!」
抱き合う章と志乃を、家族が取り巻き拍手する。
そして新しい家族が、二人の間に芽生えた。
たとえ10億円あっても、絶対に買えないものを、章と志乃は手に入れた。
それらは、まばゆいほどの宝物だった。
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