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しおりを挟む紫織の話を聞き、隼人は考えていた。
(吉永さんがニヒリストになったのは、こういった体験があったからかもしれない)
紫織は戦争のもたらす負の側面を、その心身に叩きこまれた。
だが一方で、何事も無かったかのような平和な故郷に、愕然とした。
生きがいなど、ありえ無い。
全て虚しく、価値がない。
そんな後ろ向きなメンタリティは、この対極を味わったからこそ、生まれたのだろう。
「桐生。油揚げがいらないなら、もらうぞ」
「えっ?」
「違うし! 隼人さんは、好きなものは最後に食べるだけだし!」
それでも、こうして少し、心が柔らかくなった紫織だ。
隼人は、曽祖父・英介や、祖父・達夫に感謝していた。
彼らのおかげで、固く凍り付いていた紫織の心は、雪解けを迎えたのだ。
戦争で受けた心の傷が、ようやく癒え始めたのだ。
「吉永さん。私の油揚げ、食べますか?」
「いいのか!?」
「ダメ! 隼人さん、吉永さんを甘やかさないで!」
同じネコのあやかしである、比呂との出会いも彼を勇気づけたに違いない。
いつも明るく振舞ってくれる比呂にも、隼人は感謝した。
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