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 何か僕の方からも、話題を提供できればいいのに。
 そんな風に、樹里はいつも考えていた。

 お仕事は、何をなさっておいでですか?
 最近、映画をご覧になりましたか?
 どんな音楽を、お聴きになられますか?

 しかしそれらの話は、彼の前に出ると言えなくなる。
 唇が震えて、喉がふさがる。
 ついつい、緊張してしまうのだ。

 男がコーヒーを干してしまうと、樹里は決まって肩を落とした。
 また今日も、彼のことは何も解らなかった。
 そう、残念に思った。

 カフェの常連、だが謎の男。
 せめて、名前だけでも……。

 そして今日も聞き出せないまま、樹里は彼の背中を見送った。
 彼の名は、綾瀬 徹(あやせ とおる)。
 そう樹里が知るまで、この後さほど時間はかからなかった。

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