カンバスに想いを込めて ～不幸なオメガを救い上げたのは……極道アルファ！？

3

　今まで流暢に話し、テキパキと行動していたスタッフは、しばし我を忘れた。
　そこへ、満足げな樹里の声が掛けられた。

「あの、スーツなんですけど。このまま、着て行ってもいいですか？」
「あ、はい。では、お召しになっていた服は、お包み致します」

　この純朴な少年のどこに、そんな高額がひそんでいるのやら。
　人は見かけによらないものだ。

　樹里が着ていたパーカーとジーンズを包み、スニーカーは柔らかい布製の袋に収めた。
　それらをブランドのペーパーバッグに入れ、スタッフは樹里に手渡した。

「ありがとうございます」
「こちらこそ。お買い上げ、ありがとうございました」

　あのカードを利用しているとなると、この少年は間違いなく富豪。
　だのに、必ずお礼を口にする、謙虚な姿勢。
　スタッフは、樹里を接客できたことに、喜びを感じていた。

　全てを終えたのだが、樹里はその場を離れることができずにいた。
　ためらった後に、思いきってスタッフに訊ねてみた。

「僕、カッコよく見えますか？」

　これには、スタッフも顔をほころばせた。

「はい！　とてもお素敵ですよ。後はよろしければ、ヘアスタイルを」
「解りました。ありがとうございます！」

　少し寝ぐせのついた髪に触れながら去ってゆく樹里を、スタッフ一同微笑ましく見送った。