上 下
70 / 104

7

しおりを挟む

 修羅場の繰り広げられたレストランから、ほんの近くに建つカフェ。
 樹里は、静かな音楽の流れる、穏やかな店内にいた。
 窓際の席からは、徹が仕事と称して入って行ったレストランが見える。
 まさかその中に、自分の両親と同じような境遇の事業主が困っているとは知らずに、紅茶を飲んでいた。

 時々、外を見ていた樹里は、徹がレストランから出て来る姿を見つけると、笑顔になった。
 そわそわと待っていると、ほどなくして彼がカフェへと入って来た。

「待たせたな。退屈じゃなかったか?」
「いいえ、そんなに待ってはいませんから」

 徹は、腕時計を見た。
 ランチには、少し早い時刻だ。

「どうしようか。事務所に戻って、デリバリーでも頼むか」
「僕、この先に美味しいお蕎麦屋さんがある、って調べました」
「実に有能だ」

 そんな、他愛もないことを言いながら、徹は樹里と共に駐車場へと歩いて行った。

 その背中を、先ほどのレストランの店主が見ていた。
 憎しみを込めた目で、ずっと見つめ続けていたことなど、二人は知らなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺はつがいに憎まれている

BL / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:184

護良親王転生記~南北朝時代の悲劇の皇子は異世界で魔法を極める~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:14

悪役令嬢はぼっちになりたい。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:340

俺、悪役騎士団長に転生する。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:11,716pt お気に入り:2,504

あなたが愛してくれたから

BL / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:164

女装人間

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:12

会社を辞めて騎士団長を拾う

BL / 完結 24h.ポイント:584pt お気に入り:34

処理中です...