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 私を困らせないでくれ、と徹は悲しい目をしている。
 樹里からの愛の告白を、受け入れることができれば、どんなにいいか。
 だが、強力なストッパーが、徹には掛かっていた。

「解って欲しい。何度も言うが、君を危険な目に遭わせたくないんだ。次は、命を落とすかもしれないんだぞ?」
「僕は、絶対に綾瀬さんを残して、死んだりしません! なぜなら!」
「なぜなら? 何だ?」
「なぜ、なら……」

 言葉はそこまでで、樹里は腹を押さえて、その場にうずくまってしまった。

「樹里!?」
 デスクから離れ、徹は慌てて樹里に駆け寄った。

「どうした。傷が痛むのか?」
「う……。うぅ、う……」

 額に汗をかいて、樹里はひどく苦しそうだ。

「医者に!」
 そんな徹の腕を取り、樹里は弱弱しく首を振った。

「大丈夫、です。少し休めば、治まり、ます……ッ」

 徹は、樹里をソファに寝かせ、その腹に手を当てて撫でさすった。
 呼吸が乱れていた樹里だったが、徹の介抱が効いたのか、次第に落ち着きを取り戻していった。

「ごめんなさい、綾瀬さん」
「私こそ、すまない。酷な話をしたからだな」

 腹に沿わされた徹の手に、自分の手のひらを重ねると、樹里は静かに言った。
「僕は、絶対に綾瀬さんを残して、死んだりしません。なぜなら」

 徹は樹里の言葉に、気づいた。
 そういえば、そんなことを樹里は言いかけていた。
 そして、腹痛に襲われたのだ。

 少しためらう仕草を、樹里は見せている。
 徹は黙って、待った。

「なぜなら。僕のお腹には、綾瀬さんの赤ちゃんがいるんですから」

 声を失い、徹は樹里を、そして樹里の腹を見た。

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