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しおりを挟む「そのまま、締めてろよ」
首の後ろに回されていた弦の左腕が、ぐいと前に伸び千尋の道衣の襟を掴んだ。
強い力で引かれた道衣がほどけ、彼の左胸はすっかり剥き出しになって晒された。
「ああっ!」
千尋の声に、弦はようやく我に返った。
(なッ、何だ。妙に色気のある、この声は!)
見ると、うっすら染まった白い肌が、目の前に現れているのだ。
そして、小刻みに震えている千尋。
(もしかして。俺は今、とんでもなく……エッチな状態にあるのでは!?)
「弦……先輩……」
切なげな響きの、千尋の声。
この腕の中の後輩も、同じような事を考えているのだ。きっと。
横四方固としては、このまま一旦下がってから肩で首を決める。
だがしかし。
千尋の白い肌には、道衣で擦れた痕があちこち赤くなっている。
その傷に、弦の頭は一撃で冷えた。
「千尋、痛かったな。すまない」
すぐに技を解き立ち上がると、急いで救急セットを持ってきた。
消毒液や清潔なガーゼで、手際よく治療を始める、弦だ。
その姿に、千尋は幼い頃の彼を思い出していた。
「小さい時も、こうやって弦先輩に、手当てしてもらいましたよね」
「そうだったな」
「僕は、ケンカとか弱くて。いつも傷だらけで」
今日も、役に立てなくてごめんなさい。
千尋は謝ったが、弦は首を横に振った。
「そんなことは無い。千尋は、ずいぶん強くなったぞ」
奇妙な方向へと変わり始めていた空気は、ほんわりと温かな優しい色に戻っていった。
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