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しおりを挟むその真が、杏の隣にいない。
詩央は不思議に感じて、訊ねてみた。
しかし杏から返って来たのは、不穏な言葉だった。
「詩央さん、『遠田さん』って知ってますか?」
「え!?」
詩央は、耳を疑った。
もう二度と会いたくない、名前すら聞きたくない男だ。
「杏くん、どうしてその人を……?」
「真さんが、その遠田さんが今夜来るとかで、困ってるみたいなんです」
休憩室は、とたんにざわついた。
「え!? 遠田さん、来るの!?」
「うわぁ、最悪」
「せっかくこの日のために準備してきたのに、台無しじゃん!」
杏は、周囲の様子から察した。
どうやら遠田さんとやらは、嫌われているらしい。
「杏くん。以前具合を悪くした僕が、北條さんのマンションでお世話になったことがあったよね?」
「はい。あの時は、大変でしたね」
「その元凶が、遠田さんなんだよ」
「えっ!」
それなら、杏にとっても忌むべき存在だ。
あの時の苦しそうな、可哀想な詩央の姿は、目に、心に焼き付いていた。
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