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「僕、藤丘 七瀬(ふじおか ななせ)。よろしくね」
 七瀬は、自分のグラスを丈士のグラスに傾けた。
 かちん、と良い音が響く。
「その藤丘 七瀬が、俺にウイスキーをご馳走してくれた理由は?」
「お兄さんのこと、気に入っちゃったからなんだけど」
「何で気に入ったんだ」
「悪い人だから」

 堂々巡りの問答に丈士はめまいがしたが、七瀬はおねだり声だ。
「ねぇ。お兄さんと、エッチしたい!」
 丈士は息を吐いた。
 何だかんだ言ってるが、要するにナンパだ。
 酔いも手伝って、丈士は七瀬に興味を持った。
 自宅に連れ帰らなければ、問題ない。
 ホテルで極上の美少年と、ワンナイトを楽しむのもいいだろう。

「いいよ」
「ホント? やったぁ!」
 グラスを干すと、丈士は会計を済ませ、マスターにさよならを言った。
「火傷には、お気をつけて」
「そんなヘマ、しないよ」
 そう。
 見かけが良いだけの男の子に、熱をあげるなんて考えられない。
 丈士はそんな風に、七瀬を思っていた。
 誰も愛したことのない丈士にとって、七瀬も通りすがりに触れ合う程度の人間だった。

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