5 / 12
第5話 流理とアベル、初めての共同作業
しおりを挟む
竜の王アカーシャの命が下されると、ドラゴンたちの容赦ない攻撃が人間たちを襲った。
飛竜は空から人間をついばみ、爪でえぐり、空高く連れ去ったと思ったら地上の兵の頭上に落とした。まるで人間製の爆弾だ。
地竜は人間をアリのように踏み潰し、巨大な顎でかみ砕いた。
地獄絵図であった。
人間は騎士も魔法使いも成す術がなかった。
ドラゴン族は世界最強の種族である。
そのことを古き盟約により安全を保障されていた人間たちは忘れていたのだ。
「んあ?」
しかし、竜の王アカーシャは異変に気付いた。
人間たちは誰一人死んでいなかったのである。
飛竜のくちばしや爪に傷を負わされたはずの人間からは血の一滴も出ていなかったし、空から落とされた人間もその人間の下敷きになった者も骨折一つしていなかった。
地竜に踏み潰され、かみ砕かれたはずの人間もかすり傷一つ負っていない。
ただし、当の本人たちも何故自分が無事なのかまったく理解不能なようで、困惑していた。
ドラゴン達もいくら噛みついても嚙み切れない人間たちに困惑していた。
「やめ」
竜の王アカーシャは下ろしていた手を再び上げて、ドラゴン達に攻撃をやめさせた。
ドラゴン達の攻撃がピタリと止まる。
「…あそこか」
竜の王アカーシャは、原因を見つけると瞬時に移動した。目にも止まらぬスピードで、見上げていた人間たちにはまるで消えたように見えた。
流理とアベルは、アルドラド王国の兵士達とドラゴン族の戦いの場が一望できる崖の上にいた。
どうやってそんなところに登ったのかといえば、当然ラオウのおかげである。
今も流理とアベルはラオウにまたがっている。
流理はアベルをうしろから抱きかかえるようにしていた。
「だいじょうぶかい?」
「ええ、ルリさんの力がちゃんと流れ込んできてます」
アベルは消耗していた。目を閉じ、脂汗を出し、それでも集中を途切れさせることはない。
自国の兵士たちすべてにシールド魔法をかけているのだから、当然といえば当然だった。
流理とアベルは、転生者アレキサンダーの愚かな行いを止めようと王国に向かったところ、すでにドラゴン族の討伐に向かったあとだと聞かされた。
「よりによってドラゴン族とは…!」
アベルは頭を抱えた。城内は大混乱だった。
第一王子のカインが先頭に立ち、なんとか民の避難を始めているところだった。
一国の人々が自分と同じ世界から来た人間によって大混乱に陥っている…。流理はその有様を見て、義憤を感じざるを得なかった。
「アベル君!行こう!」
「…はい!」
アベルは流理の力強さに励まされるようにして、救世主アレキサンダーの足取りを追った。
そうして現場にたどり着いたところ、救世主アレキサンダーはあっさりと吹き飛ばされ、逃亡し、残された自国の兵士たちが無惨にもドラゴン族の餌食となり果てようとしている時だった。
「いけない!」
アベルは崖の上で呪文を唱え始めた。
ここから魔法で兵士たちを助けようとしていることが流理にもわかった。
(天使ちゃん、わたしにもできることはないかい?)
アベルの集中を乱さないように、流理は心の中で天使に語りかけてみた。
〈ありますよ~〉
当然のように返事が頭の中に響いた。
秘密も何もあったもんじゃないね、と思いながらも今はそれどころではないので流理は聞いた。
(どうしたらいい?)
〈力を貸してあげたらいいんですよ。触れてください〉
流理は言われて、アベルの背中にそっと触れた。
アベルは一瞬ビクッとなったが「これは…!」瞬時に流理から膨大な魔力が流れ込んでいることに気づいた。
「…緊急事態です。いろいろわかりませんが借ります!」
「はいよ」
流理はその聡明な美少年に微笑みを返し、励ますようにうしろからそっと抱いた。
「…っ!」
アベルの体が強張り、一気に熱くなった気がした。
「おや、むしろ邪魔だったかね?触れる面積が大きいほうが力が伝わりやすいかと思ったんだけど…」
「…いえ、だいじょうぶです」
(心臓の音が背中から胸に伝わってくる…魔法ってのはずいぶん負荷がかかるものなんだね…)
流理はアベルのことをぎゅっと抱きしめた。
より力を渡そうとしてのことだった。
アベルの体はより強張り、熱くなり、心臓は跳ね上がるのだった。
〈あーあ…〉
(ご主人…)
天使とラオウは流理に呆れたが、アベルの甚大な努力と流理の親切によってアルドラド王国の兵士たちはかすり傷一つ負うことなく、ドラゴン族の一方的な虐殺から逃れることが出来たのである。
「お主らか…我の邪魔をする不届き者どもは…!」
流理たちの上空に、白髪金目の幼女が浮いていた。
二本の角を怒らせて、竜の王アカーシャは流理たちを見下していた。
その声を聞いて、目を閉じて集中していたアベルが目を開けた。
「…アカーシャちゃん?」
上空に浮いていた竜の王アカーシャに向かって、ちゃん付けで呼んだ。
竜の王アカーシャは眉間にシワを寄せ、睨みつけた。冷酷な目付きであった。
「…え?アベルきゅん?」
竜の王アカーシャはまるで見た目通りの美幼女のように頬を染め、モジモジしだしたのだった。
飛竜は空から人間をついばみ、爪でえぐり、空高く連れ去ったと思ったら地上の兵の頭上に落とした。まるで人間製の爆弾だ。
地竜は人間をアリのように踏み潰し、巨大な顎でかみ砕いた。
地獄絵図であった。
人間は騎士も魔法使いも成す術がなかった。
ドラゴン族は世界最強の種族である。
そのことを古き盟約により安全を保障されていた人間たちは忘れていたのだ。
「んあ?」
しかし、竜の王アカーシャは異変に気付いた。
人間たちは誰一人死んでいなかったのである。
飛竜のくちばしや爪に傷を負わされたはずの人間からは血の一滴も出ていなかったし、空から落とされた人間もその人間の下敷きになった者も骨折一つしていなかった。
地竜に踏み潰され、かみ砕かれたはずの人間もかすり傷一つ負っていない。
ただし、当の本人たちも何故自分が無事なのかまったく理解不能なようで、困惑していた。
ドラゴン達もいくら噛みついても嚙み切れない人間たちに困惑していた。
「やめ」
竜の王アカーシャは下ろしていた手を再び上げて、ドラゴン達に攻撃をやめさせた。
ドラゴン達の攻撃がピタリと止まる。
「…あそこか」
竜の王アカーシャは、原因を見つけると瞬時に移動した。目にも止まらぬスピードで、見上げていた人間たちにはまるで消えたように見えた。
流理とアベルは、アルドラド王国の兵士達とドラゴン族の戦いの場が一望できる崖の上にいた。
どうやってそんなところに登ったのかといえば、当然ラオウのおかげである。
今も流理とアベルはラオウにまたがっている。
流理はアベルをうしろから抱きかかえるようにしていた。
「だいじょうぶかい?」
「ええ、ルリさんの力がちゃんと流れ込んできてます」
アベルは消耗していた。目を閉じ、脂汗を出し、それでも集中を途切れさせることはない。
自国の兵士たちすべてにシールド魔法をかけているのだから、当然といえば当然だった。
流理とアベルは、転生者アレキサンダーの愚かな行いを止めようと王国に向かったところ、すでにドラゴン族の討伐に向かったあとだと聞かされた。
「よりによってドラゴン族とは…!」
アベルは頭を抱えた。城内は大混乱だった。
第一王子のカインが先頭に立ち、なんとか民の避難を始めているところだった。
一国の人々が自分と同じ世界から来た人間によって大混乱に陥っている…。流理はその有様を見て、義憤を感じざるを得なかった。
「アベル君!行こう!」
「…はい!」
アベルは流理の力強さに励まされるようにして、救世主アレキサンダーの足取りを追った。
そうして現場にたどり着いたところ、救世主アレキサンダーはあっさりと吹き飛ばされ、逃亡し、残された自国の兵士たちが無惨にもドラゴン族の餌食となり果てようとしている時だった。
「いけない!」
アベルは崖の上で呪文を唱え始めた。
ここから魔法で兵士たちを助けようとしていることが流理にもわかった。
(天使ちゃん、わたしにもできることはないかい?)
アベルの集中を乱さないように、流理は心の中で天使に語りかけてみた。
〈ありますよ~〉
当然のように返事が頭の中に響いた。
秘密も何もあったもんじゃないね、と思いながらも今はそれどころではないので流理は聞いた。
(どうしたらいい?)
〈力を貸してあげたらいいんですよ。触れてください〉
流理は言われて、アベルの背中にそっと触れた。
アベルは一瞬ビクッとなったが「これは…!」瞬時に流理から膨大な魔力が流れ込んでいることに気づいた。
「…緊急事態です。いろいろわかりませんが借ります!」
「はいよ」
流理はその聡明な美少年に微笑みを返し、励ますようにうしろからそっと抱いた。
「…っ!」
アベルの体が強張り、一気に熱くなった気がした。
「おや、むしろ邪魔だったかね?触れる面積が大きいほうが力が伝わりやすいかと思ったんだけど…」
「…いえ、だいじょうぶです」
(心臓の音が背中から胸に伝わってくる…魔法ってのはずいぶん負荷がかかるものなんだね…)
流理はアベルのことをぎゅっと抱きしめた。
より力を渡そうとしてのことだった。
アベルの体はより強張り、熱くなり、心臓は跳ね上がるのだった。
〈あーあ…〉
(ご主人…)
天使とラオウは流理に呆れたが、アベルの甚大な努力と流理の親切によってアルドラド王国の兵士たちはかすり傷一つ負うことなく、ドラゴン族の一方的な虐殺から逃れることが出来たのである。
「お主らか…我の邪魔をする不届き者どもは…!」
流理たちの上空に、白髪金目の幼女が浮いていた。
二本の角を怒らせて、竜の王アカーシャは流理たちを見下していた。
その声を聞いて、目を閉じて集中していたアベルが目を開けた。
「…アカーシャちゃん?」
上空に浮いていた竜の王アカーシャに向かって、ちゃん付けで呼んだ。
竜の王アカーシャは眉間にシワを寄せ、睨みつけた。冷酷な目付きであった。
「…え?アベルきゅん?」
竜の王アカーシャはまるで見た目通りの美幼女のように頬を染め、モジモジしだしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる