不遇な公爵令嬢は無愛想辺境伯と天使な息子に溺愛される

Yapa

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第一章

第7話 ローザ、侍女頭のコートニーを撃退する

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コートニーのうしろには、さっき洗濯物を運ぶのを手伝わずに去っていった侍女たちがいた。

(うわっ!本当に報告してるし、連れてきてる……!)

ローザはとても驚いたが、それはそうと、侍女頭のコートニーはとにかく怒鳴って怒るタイプの人だった。

「あなたは一人で洗濯もできないのっ!?この役立たず!いったい何のためにここにいるの!みんなの足を引っ張って恥ずかしくないのっ!?この給料泥棒!」

目を吊り上げて、青筋を立て、まるで怒りだけの存在になって怒鳴るのである。

(こ、こわ……!)

ニコラはさらに背を丸めて何度も謝るが、一向に勢いが弱まる気配はない。

近くで目の当たりにするだけで呆然としてしまうのだから、怒鳴り声を浴びせられているニコラは物凄く怖いだろう。

「ちょ、ちょっと!いったい何をそんなに怒ることがあるんです?」

ローザがたまらず聞くと、コートニーはやはり怒りに染まった目でローザを睨みつけた。

「奥様は黙っててください!あなたと同じ新米の侍女ですから?教育が必要なんですよ!邪魔です!」

ローザは一瞬、思考が停止しそうになる。

主従関係をまったく無視していたり、新米という言葉を使ってわざわざ侮るような言い方をしたり、邪魔とまで言い切るところなど、ツッコミどころが多すぎて混乱してしまう。

だが、ローザは息を深く吸って言った。

「……黙ってられないわ。ニコラはわたしと洗濯物を干してただけよ。それも、わたしから手伝うって言ったの。なにも悪いことしてないじゃない」

コートニーは鼻の頭にシワまで浮かべて、怒りを露わにした。

「……奥様の手を煩わせること自体が問題なんです!そんなのって不敬ですよね!?」

目を剥いて強弁してくる様は不敬の極みだが、コートニーは完全に自分を棚に上げている。

「あと奥様、聞いてらしたかわかりませんが、私さっき教育って言いましたよね!?」

「え、ええ……」

「私はニコラのためを思って、怒っているんです!怒らないと同じミスを繰り返すでしょう!?全部ニコラのためなんです!そうよね!?ニコラ!!」

「へぅっ!?え……?」

ニコラは体をビクつかせ、今にも泣き出してしまいそうだった。

ちらちらと涙に濡れる目で、ローザとコートニーの顔を見る。

「ニコラッ!!」

一際大きな声で怒鳴られて、ニコラは心が折れたようにうなずいた。

大粒の涙がこぼれる。

「ほら、これでわかったでしょう!?わかったら、今後余計な口出しはしないでくれますか!?」

コートニーが勝ち誇った顔をローザに向ける。

だが、ローザはニコラを庇うようにして、コートニーの眼前に進み出た。

「いいえ、口出しします。余計かどうかを決めるのは、コートニー、あなたじゃないわ」

コートニーはまさか反論されるとは思わず、目を見張る。

「ニコラに煩わされたか決めるのもわたしよ。あなたじゃないわ。ちなみにもちろん煩わされたなんて思ってない。手伝うって言ったのはわたしだって言ったわよね?聞いていたかしら?」

挑発するような物言いに、うしろでニヤニヤしていた侍女たちの表情が凍った。

「それとあなたは自分が怒りたいから怒っているだけよ。ニコラのためなんかじゃない。ニコラを怖がらせて、泣かせて、ニコラのためだなんておかしいでしょう?」

下を向いて泣いていたニコラが前を向く。

そこには自分よりも小さいけれど、まっすぐな背中があった。

「どうやらあなたは僭越なところがあるようね。まだ自分と他人の区別がついていないみたい。そんなあなたが教育を口にするなんて、分不相応なことだとわたしは思うわ」

力強い輝きを放つサファイアのような瞳に見つめられ、コートニーは一瞬怯む。

「……ハッ、言いたいことはそれだけですか?」

だが、コートニーは馬鹿にしたような声を上げ、強がるように口唇の端を曲げた。

「いいえ、まだあるわ」

コートニーの体がたじろいで揺れた。

「ニコラはわたしの侍女にするわ。ちょうどお付きの侍女がいなくて困ってたの」

ローザは辺境伯夫人らしい優雅で尊大な笑みを浮かべる。

「そ、そんなことは許可できませんっ!」

「……まだわかっていないようね」

「え?」

サファイアのような瞳が冷たく光り、コートニーの額に冷たい汗が流れる。

「あなたに許可なんて求めていないのよ?そもそもあなたにはそんな権限ないでしょう?だけど、侍女頭であるあなたを尊重して報告してあげただけ。……わかったかしら?」

憐れむような笑みを向けられ、コートニーは口籠るよりなかった。

顔が赤くなり、ローザを睨みつけている目の端には涙まで滲んでいた。

「コートニー様!?」

コートニーはだまって振り返ると、足早に物干し場から去っていく。侍女たちもオロオロとついて行った。

あとには、ローザとニコラのふたりが残された。

風が吹き、ミモザの枝がサワサワと揺れる。

「ふぅ……」

「お、奥様!?」

ローザは息を漏らしたと思ったら、倒れ込みそうになる。ニコラは慌てて抱きとめた。

「だ、だいじょうぶですか!?」

「ふ、ふふっ……、緊張した~!こんなことしたの初めてだから……」

引きつった笑みを見せるローザの体は震えている。心臓が早鐘を打ち、鼓動が頭に響いていた。

「う、ううっ……!奥様っ……!」

ニコラは大粒の涙を流して、ローザを抱きとめている腕に力を入れた。

「ま、守ってくれて……、ありがとうございます……!わだし、わ、わだし……!」

ニコラの顔は涙と鼻水ですごいことになっている。

「ど、どうどう……!ほら、これでチンしなさい」

ローザは近くに干してあったシーツに手を伸ばして、ニコラの鼻をかんでやった。あとでまた洗えばいいだろう。

「ううっ……!うれしかったです……!私、奥様に一生ついていきます~!」

改めて抱きしめられる。

ローザは苦笑して、背中をポンポンとしてやった。

(なんだか大型犬みたいね。ふふっ、温かい……)

ローザの震えも、心臓の鼓動のうるささもニコラの温かさに溶けていく。

「良かったわ。余計な口出しじゃなかったみたいで……」

ローザはホッとしたようにつぶやいた。

(それにしても、元領主の娘か……)

なぜコートニーがアーサーに危害を加えるのか、すこしだけわかった気がする。

新しく領主になったブラッドリーに恨みを抱いているのだろう。

それで息子のアーサーに八つ当たりしているというわけだ。

でも、まだ足りない。

アーサーはなぜ我慢しているのだろう?

ブラッドリーに相談すればすぐに解決するだろうに、なぜ秘密にする必要があるのだろう?

ミモザの枝が風もないのに一瞬揺れたが、ニコラをなだめ、頭の中ではアーサーのことを考えているローザが気づくはずもなかった。

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