異世界転職してフワフワモコモコの保育士になりました!

Yapa

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第13話 滅びのバ◯ストストリーム

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「おい!だいじょうぶか!ミカン!って、うわっ!」



王様が駆け寄ってくるが、決して肩をガシッ!とつかんで揺り動かすとかの感動的なシーンはしようとしなかった。ムカつく。



なので、わたしは無敵バリアで無傷は無傷だったから、すぐさま起き上がり「だいじょうぶじゃない~!」とゾンビのように両手を前に出し、王様を追っかけてやった。



「うわっ!ばかっ!やめろっ!あっちいけ!」



ずいぶんひどいことを言うものだ。王様が命令したのに。



「きゃ!」



蹴つまずいた。見ると、コアちゃんのお父さんの胃から引っこ抜いたものだった。



「なんだろうコレ?」



黒光りした箱のようなそれはわたしと同じくネトネトしていた。



「…お前、なんでもいいから、さっさとシャワーでも浴びて来いよ」



ドSなイケメン王様にさっさとシャワー浴びて来いよと言われるのはなかなかドリーミィなシチュエーションな気がするが、実際に言われるとこんなに腹立たしいことだとは思わなかった。なんでも経験してみるまでわからないものだ。



「はあ!?王様が行けって言うから行ったっていうのもあるでしょーが!?責任取りなさいよ!」



責任取りなさいという言葉も色っぽい場面で使われればいい言葉かもしれないが、今のわたしはドラゴンの胃液でネトネトである。いや、マジでこんな姿お嫁にいけないわけで、責任とって欲しくもなろうというものだ。



その時、ちゅどーん!と大地を揺るがす地響きとともに、空から何者かが飛来した。



「きゃっ!?」



「アルス!」



王様が呪文を唱え、わたしの足元から茨が生えて、わたしが吹っ飛ぶのを防いでくれた。親切なのかもしれないが、抱きかかえて防いではくれないのか、と乙女心ながらにショック。と思いきや、茨がジュワジュワいいながらわたしの体にまとわりついた胃液で溶けていった。



「ドラゴンの胃液は相当強力だからな。だれにも触れないように落とせよ?」



「はい…」



触れなかったのにはきちんとした理由があるらしかった。ちゃんと口で言えばいいのに。



「ところで何だ?」



王様がなにかが降ってきた方を振り返る。



それは一匹の巨大な黒竜だった。



コアちゃんのお父さんが気絶から起き上がったところで、サティさんやコアちゃん、他の物見高い我が園児たちなんかもその周りにいて、今しがた降ってきた黒竜を見上げていた。



黒竜は非常に、それはもう冷たい目でコアちゃんのお父さんを見下ろしていた。まるで仇を見る目だった。



「お前……」



コアちゃんのお父さんも息も絶え絶えに黒竜を見上げて、つぶやいた。やはり因縁の仲なのか、苦渋に満ちた声音だった。



黒竜は鼻からフンー!と息を吐いて、盛大な土煙を巻き上げると、やはりこちらも苦渋に満ちた声で言った。



「あなた……一体何やってるの?」



あなた?そう言った黒竜の声音は意外なことにアニメ声優のようにかわいいものだった。



「ままー!」



コアちゃんが黒竜の足元に走って行き、抱きついた。黒竜もやさしく羽で包み込む。コアちゃんママは言えるのか。まだ全然しゃべれないと思っていた。



「お母さんドラゴンの登場か、これは荒れるぞ…!」



いつの間にか隣にいた王様がゴクリとツバを飲み込んだ。黒竜はコアちゃんのお母さんだったらしい。ということは、今倒れているお父さんの奥さんだ。それにしてはやっぱり目つきが厳しいけど。



「お、お前こそどうして?仕事はどうした?」



たしか前に聞いた話によると、コアちゃんのお父さんは現在無職だ。



「あの…ごめんなさい。緊急事態だと思い、わたしが連絡しちゃいました」



サティさんが小さな手をオズオズと挙げる。どうやら父母緊急連絡網魔法を使って、連絡をつけたらしい。この世界にはそういう生活魔法もあるのだ。どうでしょう?みなさん、転職したくなってきましたか?わたしはまだ諦めませんよ!たとえこれから修羅場が繰り広げられようという予感があろうとも、ステキな職場であることには変わりありませんから!



「あら、先生!そんな謝らないでください!大変助かりましたわ!」



お母さんドラゴンが急に所帯じみた声と仕草でサティさんに笑顔を向けた。なんというか、奥様らしい二面性を感じさせる笑顔だった。



キッ!と一気に表情を変えて、お母さんドラゴンは言った。



「すべて悪いのはウチの夫ですから。まったくイヤですわね。今朝もアレがない、コレがないって言って家をウロチョロウロチョロして、まったく目障りといいますか、いい加減働いて欲しい!ものですわ。オーホッホッホッ!」



働いて欲しい!に強いアクセントを込めて、お父さんドラゴンに睨みをきかせるのは、ヤケクソ気味な当てつけだったかもしれない。



これにはさすがのサティさんも苦笑いを浮かべるほかなかった。



夫婦喧嘩は犬も食わないというのは本当で、いや、これは夫婦喧嘩は犬も食ってはいけないという禁止を促す教訓と考えたほうがいいだろう。



だというのに、わたしはついつい前に出てしまった。



「あの!」



その声はきちんとお母さんドラゴンに届いたみたいで、お母さんドラゴンはキツい眼差しのままこちらを見た。ついでに、ショボクレたお父さんドラゴンもこちらを見た。



「おい…よせ」



小さな声で王様が忠告してくれるが、わたしはもう一歩踏み出した手前、止まることはできなかった。



「コレ!こんなものがお父さんのお腹のなかにあったんですよ!あの……だから、しょうがないですよ!こんなものがお腹のなかにあったら、だれでもお腹痛くなりますって!」



わたしはネトネトの黒い箱を両手に掲げてみせた。



「……あらあら、あなたがミカン先生ですね。どうもお世話になっております。それにしても、一体どうしてそんなにネトネトなんですか?」



お母さんドラゴンは声は柔らかだが、まるですべてを察しているような鋭い目つきで聞いてきた。



まずい。お父さんドラゴンのお腹のなかに入って痛みの原因物質を取ってきたのです、なんて説明したら、ますますお父さんドラゴンの立場が悪くなってしまう。



「ま、まあ、そんなことは、どうでもいいじゃないですか…!ねえ!お父さん!」



わたしは苦し紛れにお父さんドラゴンに話を振った。



結局はお父さんドラゴンがお母さんドラゴンにはどうにかするしかないのだから。



「あ、ああ……ああー!ソレソレ!」



お父さんドラゴンはまだちょっとボンヤリしていた目をようやくくっきりさせて、わたしの両手から黒い箱をつまんだ。



ネトーとあとを引いて、箱はわたしの手から離れた。



「うわあ……」



王様が引いていた。コイツはあとでぶん殴る。



「?なによソレ?」



お母さんドラゴンが訝しげに聞く。



「いや、今朝探してたのは、実はコレなんだ…」



「だから、なによソレ?」



お父さんドラゴンは苛立たしげに聞くお母さんドラゴンに弱々しい苦笑を向け、しかし、何事か覚悟を決めたようで、黒い箱についたネトネトを乱暴に自分の腹で擦り落とすと、立ちあがり、それから片膝をついた。



「な、なに?」



それまで居丈高だったお母さんドラゴンは気圧されたようにたじろいだ。



「俺たち、結婚して一年経ったじゃん?駆け落ち同然でこっち出てきて、結婚指輪も買えなかっただろ?だから、コレ…」



お父さんドラゴンは黒い箱をパカッと開けた。



そこには超巨大な黒真珠がはめ込まれた指輪が入っていた。見るからに高そうだ。



「……受け取ってくれるか?」



感動のシーンだ。買えなかった結婚指輪を夫が内緒で買って、妻にサプライズを仕掛けているというわけだ。お父さんドラゴンが思い描いていた展開とはかなりちがうだろうが、サプライズはサプライズだろう。



「……どうしたの、コレ?」



お母さんドラゴンは涙を滲ませて聞いた。



「へへ……お前が喜ぶと思ってよ」



お父さんドラゴンが少年のように照れて鼻の下を人差し指でコスる。どこか得意げですらあった。



お母さんドラゴンの声は震えていた。



「ちがう。喜ぶとか喜ばないとかじゃない。お金の出処はどこかって聞いてるのよ…!」



震えてはいたが、どうやらにじみ出る怒りで震えているようだった。雲行きが怪しくなってきた。



「え?そ、そんなことはどうでもいいじゃないか…」



お父さんドラゴンは見るからにうろたえていた。巨大な体をキョロキョロと挙動不審に動かしている。砂ぼこりがすごい。



サティさんが危険を察知し、子供たちをうしろに下げさせた。



「どうでもよくない」



お母さんドラゴンは真顔で言った。ジッと瞬きをしない目でお父さんドラゴンを見つめていた。見ているこちらまで体が強ばる圧を感じた。



「……へそくり」



「へそくりの出所は?」



お母さんドラゴンはすかさず切り返す。



「……スーパーで買い物した時の端数とか」



どうやらお父さんドラゴンは生活費の端々に出るおつりを貯めてへそくりにしていたらしい。それで婚約指輪を買ったのだ!



(す、すごい…!)



少なくともわたしと王様とサティさんはそう思ったはずだ。



涙ぐましい努力じゃないか。



けど、お母さんドラゴンはそうは思わなかったらしい。



「それ結局わたしの給料じゃん!わたしはわたしの給料で婚約指輪を買うのかよ!もうヤダ!このヒモ夫がー!」



バッサー!とお母さんドラゴンは羽を広げ、胸にコアちゃんを抱いて、宙に浮かび上がった。



キュキュキュキュイーン!という高圧でなにかが圧縮されていく音が轟く。



「いかん!マルス!」



王様が呪文を唱えると巨大な植物が一気に生成されていった。わたしやサティさんと子どもたちを守るようにドーム型になっていく。



お父さんドラゴンだけが取り残されていた。



木の隙間からそれを見ていたわたしは「王様!お父さんドラゴンが!」と抗議したが、王様は「この戦いには犠牲が避けられん……!」と渋面になった。



「はわわわわわ!」



お父さんドラゴンは腰を抜かして、空を見上げるばかりだ。



お母さんドラゴンの口の前に禍々しいほどのエネルギーを放出する球が出来上がっていた。



「朽ち果てよ…!滅びのバ◯ストストリーム!」



お母さんドラゴンの口からバーストストリ◯ムが射出されて、凄まじい光のなかにお父さんドラゴンは消えていったのだった。
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